佰伍拾漆日 ページ4
末鋼殿は私の刀をじっと見つめ、
その後手入れしていく。
その間は静かだ。刀に余計なホコリなどが付かないように
刀の手入れをする際は静かにやらなければならない。
私は自分で刀の手入れは出来るものの(下手ではない)
知っての通りの不器用さなので、なるべく人にお願いしている。
そんな刀の金属音と布が擦れる音、外の鳥のさえずり、
風の音しかない静寂の中で、末鋼殿は手入れを進め、
やがて手が止まる。
どうやら終わったらしい。
末鋼「………それでも。
士魂は例え刀を持たなくなった時代になったとしても、
人々の………次世代の子から子へ、あり続けるだろう」
『末鋼殿………?』
末鋼「日の下での、人と人が争うことは無くなった。
戦はもう無い。だがまだこの世には脅威がある。
無惨はまだ、この世界にいる。
きっと………昔の武士も願っていたはずだ。
世の平和を………だから戦い続けた。
武士と共にあり続けた刀鍛冶。
俺は、繋がれたこの技術を信じている」
胸に込み上げるものがある。これは彼の感情か。
彼はあまり表情を変えることは無かったが、
刀のあり方を誰よりも理解して、
過去の人間が成してきた歴史を信じている。
その熱意が、私にも伝わった。
末鋼殿は手入れを終え、私の前に刀を置く。
末鋼「無くしてはならないものがある。
繋いできた、人々の願いと思いに応えるためにも、
無惨は倒さなければならない………
俺は──例え四肢をもがれようとも、刀を鍛える事が
出来なくなったとしても………別の形で戦い続ける。
忘れてはいけないのは、意志だ。
死した同胞に、意味を与えるのは………
俺達にしか出来ないのだから」
『嗚呼、そうだね』
末鋼「風柱。俺が死んでも意志だけは………
無くされませぬよう。自分が願うのはそれだけ」
『…………』
末鋼「俺が死んでも風柱の刀を鍛える事が
出来る人間は、他にも居る。
──既に、その術を残してあります。
人はいつかは死ぬ。それは俺も例外ではない………
この世界にいる限り」
『………そうか。君の覚悟は分かったよ。
でもやっぱり君には生きてもらわないと困るな。
私の刀を鍛えるのは君だからね。
私が死ぬまで、共に戦ってくれ』
末鋼「無論です」
『流石、分かってるね』
末鋼「長い付き合いですから」
・
34人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:冷泉 雪桜 | 作成日時:2023年6月22日 15時