佰参拾陸日 ページ25
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『(流石に、根を詰め過ぎた、か………)』
少し疲れが出始めている。
いけないな、まだ当分柱二人は帰ってこない。
帰ったらまた別の仕事が残っているんだが………
流石に少し休まないといけないな。
『(このあたりで少し体を休ませよう)』
懐から火打ち石を取り出し、簡単な野営の準備をする。
無防備となるので、藤の花の香を焚いた。
辺りに藤の花の香りが漂う。
月が見える………綺麗な満月だ。
夜明けまでは時間がある。
油断はできない為、眠ることは出来ない。
こんな………綺麗な満月の下で、今も鬼が人を脅かしている。
『(兄が死んだ時も、美しい満月の日だったな……)』
夜風が心地いい。優しく私の体を撫で、私が簪としている
二本の風車がカラカラと乾いた音を鳴らした。
今日はやけに感傷に浸ってしまうな。
人が居ないと、自分の感情が表に出やすくなるな。
もっとも、自分に対しての感情なんて、
そんなに感じることもないが。
ふと、カサリと茂みが揺れる。
………誰か居る。鬼、ではなさそうだが。
私は置いていた刀に手を伸ばす。
相手の顔を見るまでは
他者の感情は読み取ることは出来ないが、
気配的にも悪意や敵意は無さそうだ。
「誰か居るのか??」
『!あれ……、その声、粂野殿?』
粂野「いて!枝が引っかかった………って、
えっ、師範?なんでここに???」
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『そうか。君も任務でここに』
粂野「はい。とは言っても、この辺りで噂になっていたのは
人食い熊らしくて。詳しく調べたんですけど、
本当にただ人を襲っていた熊だった、ってのが結果でしたがね」
『熊……それはそれは。まあ、鬼という存在が
世間ではあまり知られていないからね。
そういうハズレの日もあるだろうさ』
話を聞けば粂野殿もここらの一帯にある噂の情報を元に
調査していたらしいが、結果的に熊の仕業で
あったとされていたらしく、鬼とは関わりがなかったようだ。
まあ、そういうことはよくある話だ。
鬼とて目立つこともしたくないはずだから、
賢い鬼とかは巧妙にその事実を隠したりするのだ。
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作者名:冷泉 雪桜 | 作成日時:2023年6月22日 15時