佰肆拾伍日 ページ16
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『美味しいなぁ』
牛鍋屋で、牛鍋を食べたのは初めてだったが、
こんなにも美味しいものだったとは思わなかった。
牛の肉自体、食べるのが初めてでもあるが。
人気になるわけだなぁ………
カナエ「美味しいわねぇ」
桜雲「おい、そよ風。お前は自腹で払えよ」
『勿論だよ。連れてきてくれてありがとう』
桜雲「うわいい子。腹立つ」
しの「………ケチ」
桜雲「俺はテメェらを祝う為に奢ってるんだが??
そよ風は何もしてねぇじゃねぇか!ああん!?」
いつもこんな風なんだろうなぁと思いながら、
口喧嘩をしている桜雲殿としのぶ殿を見る。
二人は少し似てるなと言ったら、
揃って「似てない!」と睨まれてしまった。
すると、カランッとしのぶ殿が箸を落とした。
しのぶ殿は手を抑えている。
カナエ「!しのぶ、大丈夫?」
しの「、………平気よ、これくらい」
カナエ「やっぱり、刺激が強かったかしら………?
姉さんが食べさせてあげようか?」
しの「そ、そんな歳じゃないわもう………」
『手を怪我してるのかい?
………血が滲んでいるね。木刀を握って、傷ついたかな』
しの「………」
桜雲殿と言い争っていたしのぶ殿の両手は包帯が巻かれていた。
血が滲んでいて、包帯が僅かに赤くなっている。
しのぶ殿は先程までの勢いが無くなり、
キュッと手を握っていた。
私は彼女の手を取って、その傷だらけであろう両手を見る。
『………傷は努力の証さ。頑張っているようだね。
でも痛むんだろう?無理はいけないな。
無理すると悪化するよ、刀を握れなくなる』
しの「………、」
『恥じなくていいよ。君は確かに成長できてるのだから。
そうだ、私の軟膏をあげよう。傷もすぐ良くなるよ。
………って、君達は薬に詳しかったね。余計なお世話だったかな』
しの「……いいえ、ありがとう………有り難く頂くわ」
カナエ「良かったわね、しのぶ」
桜雲「………ハァ、おーい。そこの店員のお嬢ちゃん。
匙を貰っていいかい?」
その時、桜雲殿が店員にそう呼びかけた。
匙………嗚呼、しのぶ殿が箸で食べづらそうにしていたからか。
彼の意図を理解して、思わず口が綻ぶ。
『ふふ、優しいな』
桜雲「うるさいね」
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作者名:冷泉 雪桜 | 作成日時:2023年6月22日 15時