佰肆拾玖日 桜風 ページ12
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「良く来てくれたね、A」
十六歳を迎えた私。
目の前にはお館様が居て、私は何時ものように頭を下げ、
挨拶の言葉を口にする。
今日はお館様に呼ばれ、産屋敷邸にやって来たのだが、
お館様は今日は御体の調子が良いようで、
庭で一人桜の木を眺めていた。
『気持ちの良い日ですね。風も温かい。
お館様の御体の調子も良いようで、安心しました』
輝哉「うん、君も今日は何だか楽しそうだね。
嬉しいことでもあったのかな?」
『ええ、教え子が階級を上げまして。
”壬“から”辛“に。師として鼻が高いです』
輝哉「匡近の事だね。あの子は強い子だ。
今後も大きな功績を残していくだろう」
『………はい』
輝哉「………さて、今日私が君を呼んだのは他でもない。
君の手の甲に刻まれた痣についてだ」
………やはりその話か。
お館様の言葉に、私は一度深呼吸をする。
輝哉「知っての通り、【痣の者が一人現れると、
共鳴するように周りの者達にも痣が現れる】という記述がある。
これは産屋敷家、そして“小鳥遊家”のみに
言い伝えられてきたものだ」
『はい。通称“痣者”と呼ばれる者は、
痣が発現した者は身体能力が飛躍的に上がり、
鬼から受けた傷が通常では考えられない速さで回復する。
………しかし痣の力は【寿命の前借り】。
痣者は例外なく二十五歳を待たずに死にます』
輝哉「そうだ。そして君はその宿命を背負っている」
私は改めて手の甲に刻まれている痣を隠すように
巻かれた晒を見つめた。
この痣については、痣の危険性、
痣を発現した隊士が現れた場合の心身の負担を考慮、
そして鬼の間の共有の危険性を考え、
産屋敷家、そして小鳥遊家の間のみに言い伝えられてきた。
私の場合は十四の頃、最終選別の際に
発現したのがきっかけだった。
最終選別で死にかけ、死を回避する為に目覚めたのが痣の力。
その日から、痣は消える事なく刻まれ続けている。
痣というのは一時的に発現するものらしいが、
どうやら私は違うらしい。
だが痣であることには変わり無い為、
いずれにせよ、痣者の宿命は回避できないだろう。
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作者名:冷泉 雪桜 | 作成日時:2023年6月22日 15時