佰伍拾玖日 太刀風 ページ2
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小鳥遊邸へ向かう帰路にて、私は末鋼殿と共に歩いていた。
………失敗した。少し、落ち込む。
何とか煉獄殿の為に自分が出来ることをと、
こうして定期的に彼の下を訪れていたが………
私の左手にある痣を見た瞬間、煉獄殿の内なる心情が
大きな変化があったのを感じ取った。
何かが壊れたかのようなものだった。
今回をきっかけに、多分だが………
彼は心を開かなくなってしまったかも知れない。
分かったのは、私では彼を救うことが
出来ないという事だけだった。
『仲裁に入ってくれたこと、改めて感謝するよ。
ありがとう、末鋼殿』
末鋼「いえ。先程言った通り、
炎柱も風柱も本気では無かったが故に、間に入れたのみ。
まだ柱でもない自分が止められる程度で助かった。
貴方達と自分の力量の差は大き過ぎる」
『それでも助かったよ。呼吸法の剣技で
人に刃を向けてしまう日が来るなんてね。
気をつけていたけど、駄目だった』
末鋼「………貴方でも炎柱に声は届かなかったか……」
『私だって人だ。何でも出来やしない。
それに何度も言うが、私は善人じゃないよ。
何でも救えはしない………私はひたすらに同情をするか、
寄り添う事しか出来ないような、そんな臆病者さ』
末鋼「そんなことはありません」
『いいや、誰だってそうなんだ。
私は、その人間が立ち上がるための
きっかけとなる事しか言えないし出来ない。
本当の救済なんて、人それぞれに持つ成長の変化だよ。
”他者“ってそういうことなんだ。
誰かを支え、誰かを慈しむというのはね。
結局、変える事が出来るのは自分自身の成長だ。
だから人は強くなる。
………きっと、煉獄殿を助けるのは私では無かった。
それだけだよ──』
それは、私の兄が言っていたことだった。
兄はとても優しい人だった。
そして人の恐ろしさと、
人の強さをよく知っていた人でもあった。
これは、兄からの受け売りだったが、本当にそうだと思う。
人一人の力なんて限られている。
今回の場合、私は煉獄殿の心を救えるほどの言葉を
思いつくことができなかった。
ただ、それだけのことである。
『煉獄殿は心配だが、師である先代風柱が
彼を信じていたならば、私は煉獄殿を信じている。
いつかきっと、彼の努力は報われる。
例え、どんな形であれど、な──
きっと、彼を救うきっかけを作ってくれる
人間が………彼の下に訪れるよ』
末鋼「………そうですか」
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作者名:冷泉 雪桜 | 作成日時:2023年6月22日 15時