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Aside______


真っ白な紙の上に散らばるインクの羅列を眺めるのが好きだった私の世界は、文字通りモノクロだった。でも私は別にそれで良いと思っていたし色を求めたこともない。生きるために必要でないのなら私はわざわざそれを追いかけようとは思わなかった。


でも、彼と出会い私の見る景色はカラフルになった。文字ばかり見ていた私に色とりどりの景色を教えてくれたように、私は彼と出会ってからさまざまなことに対する見方が変わったということは自分でも分かる。


彼に惹かれていくことに疑問は感じなかったしこの感情をなんと呼ぶのかも知っていた。でも私が彼に“好き”と言っても彼は濁して私の言葉を真面目に受け取ってはくれない。きっと私も彼も、自分の感情を見失って道に迷っているんだ。


私をたった一度だけ抱いて離れていった彼とは、道に迷ってもう会うことはないだろう。……いや。離れたのは私の方だ。彼は私に寄り添おうとしてくれたのに私は罪の意識から逃れるために彼から離れた。


私のような人間が彼に釣り合うはずがない。それなのに体を重ねてしまった、彼を好きになってしまった。法では裁けない罪が私を苛む。ダメだと分かってても愛を伝えることが止められなくて。あぁ、彼だって困っているのに。


「俺が許してやろうか?」


彼がそう挑発的に笑ったとき私の心臓は大きく跳ねた。神でも悪魔でも誰でも良い、そう貴方でも。私を許してくれるのならそうしてほしかった。人を愛するってこんなに辛いことなの?


だから彼と再会してしまったとき、私の脳内はマドラーを突っ込まれて掻き回されたみたいにぐちゃぐちゃになった。会いたかったけど、会いたくなかったんだ。


「ねぇ、A。今も俺のこと好き?」


彼がそんなことを聞いてくるものだから私は思わず“うん”と答えてしまいそうになった。手首から伝わる熱があの夜のことを想起させる。私を真っ直ぐに見つめるその目は何かにすがるようだった。


ねぇ、どうして貴方がそんな目をするの。どうして貴方がそんな顔をするの。重い罪に押し潰されそうなのは私の方なのにどうして貴方がそんな苦しそうに言葉を吐き出すの?どうすれば良いのか全く分からなくて何も答えずに彼の手を振り払った。


彼の頬に強烈な平手打ちをしてその場を立ち去ることしか出来なかった私はなんと惨めだろうか。最後に吐き出した“バカ”という言葉は彼に向けたものか、それとも。


彼を愛してしまった私はなんと愚かなのだろうか。

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作者名:華影 | 作者ホームページ:http:/  
作成日時:2019年6月21日 21時

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