【Fischer's】華影－Hanakage－ (ページ3)

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体を重ねたのは正解だったか間違いだったか。仮に間違いではなかったとしても絶対に正解ではないだろう。難しいことはよく分からなかったとしてもこれはなんとなく本能が理解している。

「……飯食わねぇと」

俺一人しか居ない家の中で無意味に呟いた。連日撮り溜めた動画を編集していれば時間が過ぎるのは実に早いもので、朝食を食べ損ね昼になっていたことにようやく気づいたくらいだ。下手をすれば一日が終わる。

サンダルを突っ掛けて気だるげに外に出れば夏の独特なにおいが鼻を突いた。小さな袋に入れられた小銭をスウェットのポケットの中で弄びコンビニへ向かう。ふと顔を横へ向けると向こうの空が黒い雲に覆われているのが見えた。

「あーっしたー」

もはや“有り難うございました”の原型すら感じさせないほど崩れた挨拶をする店員のもとでレジを済ませ帰路に着く。ほんの一瞬の間に雨雲がこちらまでやって来たようでコンビニを出ると雨が降っていた。

しゃーねぇか、と思い濡れるのを覚悟で雨の中を突っ走る。コンビニから家までそう遠くないのが不幸中の幸いかも知れない。まぁ何にせよとっとと家に帰るため足早に歩を進めた。

もう家は目前、といったところの交差点で俺の目の前を横切る女性。その女性を、俺は確かに見たことがあった。いや見たことがあるなんてレベルじゃない俺は間違いなく知ってるんだそう彼女は、彼女は＿＿＿＿

「＿＿＿＿A？」

考えるより先に体が動き気づけば彼女の腕を掴んで引き留めていた。面倒臭そうにこちらを振り向く彼女の瞳が俺を捉えた瞬間驚きに揺れる。人違いなんかじゃなく確かに彼女だ。

なんで引き留めたかは俺自身もよく分かってないし彼女からしたらいい迷惑なんだろうなと思った。たった一度だけ自分を抱いてそっから疎遠になった男となんて会いたくないに決まってる。だけど俺は。

「ねぇ、A。今も俺のこと好き？」

こう尋ねた自分の声は酷く震えていた。俺はどうしてこんなことを聞いているのだろう。どうして彼女は、俺の手を振り払って逃げ出さないのだろう。そんなことを自分に問いかけたって答えなど返ってくるはずもないのに。

今も俺を好きでいてくれてるなんてそんな都合の良いことあるわけがない。そもそも“好き”というあの言葉だって本当だったのかも分からない。それなのに俺は、どうして。

何故、どうして。そんな疑問の言葉が次々と溢れてくる。本当は俺自身も分かっていないんだ。自分がどうしたいのかも、彼女がどうするのかも。