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妙なタイミングの良さを発揮してる、だなんてぼんやりと考えた。



「なあその……俺今日Aちゃんに話したいことあるんよ」
「そうなの? 奇遇だね、私もだよ」




本当に奇遇だ。そして彼にとっては残念な奇遇。
何故なら私は彼より先に私の言いたいことを言って、そのまま彼の言葉なんて聞かずに去るつもりだから。



「あ、どうする?」
「Aちゃんからでええよ」



さあ、どうなるんだろう。
奈落に一緒に落ちてやる、そう意気込んで始めたことだった。でも無理だろう。宮くんにそこまで思わせるのはきっと無理。ただ、罪悪感くらいは覚えてほしかった。

私が絶望したこと、酷く傷付いたこと。
私という人間を知らないままなら想像しようもなかったそれらが、彼に少しでも伝わればいい。あの日の夜考えていたことだ。

長く騙したことで、嘘を重ねたことで。積み重なった罪悪感なら、私が得たほどでなくても小さな傷を負わせることができるかもしれない、と。



「あのね、宮くん」




悪気の無い、一瞬で終わるほんのお遊びだったんだろうね。告白された次の日のネタバラしを、笑って受け入れられるくらい私が優しくて、良い子だったらよかったのにね。
でもそうじゃないから。




「……“あんな地味なの、好きになるわけないやん”」




くっ、と宮くんの目が見開かれた。その顔はどういう顔なんだろう。どんな感情を映した顔なんだろう。何だか頭がぼんやりしていて考えられない。


それから私は、何だか思わせ振りで皮肉の効いたセリフを吐いて立ち去る予定だったっけ。でも今はそんなものは思い浮かばない。疲れたのだ。私は嘘をつくのに疲れきっていた。
だから口から出たのは皮肉も何もないただの本心。




「優しい嘘をありがとう」




疲れきっていた。
けれど馬鹿げたことに、楽しかったのも事実だった。

そのまま立ち上がって、扉まで彼を見ずに黙って歩いていった。重量の変わらない弁当箱がささやかに違和感を主張していて、あ、終わったんだとストンと腑に落ちた。



「どこ行ってたの?」
「ちょっとそこまで」
「言いたくないなら聞かないけどさ〜」
「察しが良くて助かるや」



開いた弁当箱の中身はちょっぴり崩れていた。何だか今の自分の気分にはそぐわない間抜けさを感じて、ほんの少し笑えた。
 
 
 
 

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えま(プロフ) - せなけいこさん» そこまで言っていただけてただただ感謝です!! ありがとうございます!! (2020年10月3日 15時) (レス) id: 1055510b53 (このIDを非表示/違反報告)
せなけいこ - 星の数が足りません!めっちゃ好きです!! (2020年10月3日 14時) (レス) id: ef980343e4 (このIDを非表示/違反報告)
えま(プロフ) - おかか。ですか?さん» ありがとうございます!! 作品を楽しんで頂けたようで幸いです!! (2020年9月7日 18時) (レス) id: 1055510b53 (このIDを非表示/違反報告)
おかか。ですか? - 私の語彙力がないせいで言い表せないんですけど、めっちゃ面白かったです!最高でした!! (2020年9月7日 17時) (レス) id: 0ecde9d0b0 (このIDを非表示/違反報告)
えま(プロフ) - せりなさん» 天才だなんて!! 身に余る言葉です、ありがとうございます!! (2020年5月13日 5時) (レス) id: 1055510b53 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:えま | 作者ホームページ:http:/  
作成日時:2019年4月24日 17時

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