第六章 ページ33
「なあA
鶴蝶の見舞い行かないか」
『え、行く』
ある日の昼下がり、仕事の合間に本を読んでいた私にココが話しかけてくる。
なんでも、鶴蝶の意識が戻ったらしいのだ。
『雨音も挨拶がてら連れてっていい？』
「お、仲良くなったのか？」
『できれば連れていきたくないけど』
「そうかそうか」
『なにその反応』
「なんでもねえよ」
『あれココ
私の能力忘れた？
心読めるんだよ』
「顔まだ見せてねえもん」
そんなくだらない会話を交わしながら玄関へ向かう。
『あ
雨音呼ぶの忘れた』
「早く呼べ」
『分かってるって』
部下との連絡用のスマホを出し、雨音に電話する。
「はい」
『玄関来い
今すぐだ
7秒だけやる』
返事を聞かずに電話を切り、7秒数え始める。
「7秒はさすがにきついんじゃね？」
『私でもいけるわ』
「は？お前も？
どうやって…」
ココが口を開いた瞬間、裏から声が響いた。
「Aさーん！」
ギョッとした顔になるココ。
姿を現したのは雨音だ。
「Aさん、7秒過ぎました？」
『んージャスト7秒
ちょっと遅い』
「えー残念ー」
「…お前どんな教育してんだよ」
私たちに向かってココが呆れ顔で言う。
『教育はしてない』
「どうやってここまで来たんだ？」
「えーと、
さっき私Aさんの部屋で仕事してたんです
で電話来て、窓から降りました」
「窓から降りましたってお前なぁ…
あそこ6階だろ？」
「8階までは余裕ですけど」
「……」
雨音の解答に黙ってしまうココ。
多分雨音自身は常識を話している気なのだろう。
雨音の常識は反社の中でさえも斜め上をいっている。
変な空気が流れ始めたので、1人で車の方へ歩き出す。
『ほら、早くしなよ
見舞い行けなくなるよー』
「…おう」
「見舞いって誰のですか？」
『あれ、まだ言ってなかったか
鶴蝶っていう奴
一応梵天No3だから失礼のないように』
「Aさんのその一応っていうのが一番失礼な気がします」
『お黙り』
「はあい」
黒スーツの運転手が開けたドアの中に乗り込む。
『今日休みにしてあげるから
運転雨音と代わって』
「分かりました
失礼します」
そのまま広い車内で本を開く。
「ちょっと待ってくださいAさん
どこ行けばいいんですか？」
『ココに聞いてー』
「九井さん
道案内してください」
「おいA、丸投げすんな」
『めんどくさいんだもん』
ココの口から特大のため息が漏れた。
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作者名：ユキネコ x他1人 | 作成日時：2022年9月1日 10時
