Interlude−5 ページ24
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「A」
背後で厳格な声が私を呼んだ。
ゆっくりと振り返る。
――こちらを鋭く睨み下ろす、精悍な顔立ちの男と目が合った。
決して逆らえない「あの人」だった。
「時間だ。戻れ」
「……はい」
私は手札を開示せずにテーブルに置き、席を立って4人に一礼した。
「ありがとうございました。失礼します」
「無駄なことはしなくていい」
「……すみません」
謝罪にさえ反応を示さず、踵を返したその人に口を閉ざしてついていく。
後ろから彼らの視線を感じ、胸の中が哀しさで溢れた。
……これで今度こそ気付かれるだろう。私が平紗グループのトップに立つこの人に
■□■
私の母は国士無双と謳われたディーラーだった。
父と出会ったのもカジノでだそうで、あまりに弱かった父を助けてあげたのがきっかけらしい。
その父は物心づいた時にはいなかった。病気で他界していたのだ。けれど母が充分大切に育ててくれたので、私は満ち足りていた。
――10歳の誕生日を迎える直前のことだった。
母が、高齢者の運転する車に轢かれて死んだ。
稼ぎは全てポーカーで、滅多に一人で陽の下を歩くことのなかった母はその日、私の誕生日プレゼントを買うために街に出ていた――そして、不幸な事故で、死んだ。
警察による捜査が始まると、母の素性――闇カジノのディーラーを何十年も務めていた事実が間もなく発覚した。
捕まりそうになった私を助けたのが、平紗グループの創始者でありトップの男。
平紗
彼は私を養子として迎え入れ、母についての一切を揉み消し私の過去も内密に書き換えた。
幼かった当時の私は、どこの誰とも知れない彼を純粋に、自分のことを救ってくれた優しい人なのだと思っていた。
それが幻想だったと気付いたのは、闇カジノに放り出された後だった。
『午前0時までここにいろ。
私を見下ろして冷酷に告げ、彼は扉の向こうに消えていった。
幼い私に残されたのは、金に光る20枚のチップだけだった。
周囲のざわめきが不安に比例して激しさを増す。
……どう、しよう。
『大丈夫?』
不意に叩かれた肩をびくりと跳ねさせて、私は恐る恐る後ろを振り向いた。
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ノア(プロフ) - のんさん» ありがとうございます!!これからも頑張ります!^^* (2020年8月11日 14時) (レス) id: 17af415a1e (このIDを非表示/違反報告)
のん - とっても面白かったです!こんな素敵な作品を読ませていただきありがとうございます!「ポーカーフェイク」の歌詞と物語の内容がぴったりと合っていて、すごいと思います!これからも作品作り、頑張ってください!(長文失礼しました) (2020年6月10日 22時) (レス) id: d1f95d9fc5 (このIDを非表示/違反報告)
ノア(プロフ) - ひよりさん» コメントありがとうございます!初めてなんて光栄です……!曲をテーマにした小説で歌詞の使われ方に違和感ないと言っていただけるの一番嬉しいのでそれも本当に嬉しいです(;///;) ありがとうございます、是非他作品もこれからもよろしくお願いします! (2020年3月18日 22時) (レス) id: 97e24364b3 (このIDを非表示/違反報告)
ひより(プロフ) - 占ツクで初めて感想書いてます!曲の歌詞が違和感なく使われていて、思わず「すごっ!かっこいい!」と1人で騒いでました。笑 占ツクで感想書きたくなるくらい良い作品に出会ったのは初めてです!その文才が羨ましい...。ほかの作品も読んできます!応援してます! (2020年3月14日 3時) (レス) id: d25668dc8d (このIDを非表示/違反報告)
ミルクショコラ - 私もよく本を読んで一人で笑ってしまいます。読んでなくても思い出し笑いをしてしまいます。。。笑 なので、極力マスクをするようにしてました笑 話、楽しみにしています! (2020年3月5日 13時) (レス) id: a2c6795623 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ノア | 作成日時:2019年5月1日 0時