モーニングスター家の次女【ハズビンホテル】 (ページ6)

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「Aおかえり……って、どうしたのその怪我！？何があったの！？痛くない！？大丈夫！？」

「チャーリー、落ち着いて……」

　Aはじぶんの間抜けさにうんざりした。首の包帯が目立たぬように黒のスカーフで隠したまではいいが、うっかりずれてしまっていたことに気がついていなかったのだ。

「大したことないから、本当に」

「でもそれって！」

「シーッ！あまり大声で……」

　時すでに遅く、騒ぎを聞きつけたルシファーが何事かと向かってくる。Aの首を見た彼は案の定、娘以上に取り乱した。

「A、お、お前、お前その怪我！どうした、誰にやられた！？」

「パパ、ちょっと……」

「きっと罪人だろう。いや絶対そうだ。よくもAを……！」

「待って、一旦落ち着いて！」

　Aは必死に『自分でうっかりやってしまっただけ』と嘘の説明をし、何とか父親を落ち着かせることに成功した。

「そ、そうか……よかった。いや、よくはないな。傷はその、本当に大丈夫なのか？」

「うん。ごめんなさい、心配かけて」

「いや、いいんだよ。でももし、罪人(奴ら)に何かされたら絶対に言うんだぞ？」

「分かったわ」

「よし！」

　はじめのドタバタが過ぎてしまえば後は平和なものである。夕食のテーブルでチャーリーは楽しそうに友人たちのことを語り、ルシファーは『可愛くて堪らない』と言いたげにニコニコ顔で相槌を打っている。

　ふと、リリスとAの視線が合った。父親と違って彼女は深く追求してはこなかったが、その瞳には心配の色がある。静かに微笑みながらもリリスの目はこう語っていた。――あまり無茶をしては駄目よ。

　――うん、分かってるわママ。
　Aはニコリと笑い、心の中で返した。人間界に行っていることは家族にすらも秘密にしているが、もしかしたら母はうっすらと気づいているのかもしれない。

　一方でAは例の殺人鬼のことが気がかりだった。残忍なオーバーロードの例に違わず、彼もまた悪魔に転生すれば生前と同じような『遊び』をするのではないか。

　できれば彼とは二度と会いたくはないし、家族が危険な目に遭うのはもっと耐えられない。Aはせめて彼が死ぬ前に改心してくれることを切実に祈った。