モーニングスター家の次女【ハズビンホテル】 (ページ13)

今日:17 hit、昨日:77 hit、合計:12,136 hit

１１ページ13

＊

「それで、昨日も一緒に食事に……」

　Aが話している間、リンはフリーズしていた。間の席ではサキュバスのシェリーナが鼻歌を歌いながらグラスをかき混ぜている。

「Aに、かか、彼氏！？」

「彼氏じゃない、友人！一応……」

「でも、好きなんでしょ？」

「うん……」

「どんな悪魔？外見は？」

「それは秘密。でもほんと、何でだろう。恋するなんて思わなかったの。最初は『雰囲気が良い』って思っただけなのに、話しているうちにどんどんあの人に惹かれて……」

「ヒプノタイズ」

　それまで黙っていたシェリーナがポツリと呟き、Aとリンは同時にそちらを向く。

「あんた、まるで催眠にかけられたみたい。うっとりしちゃって」

　彼女は面白そうに笑った。インキュバスやサキュバスが恋をすることは滅多にない。『性愛』はあっても『恋愛』は少ないのだ。

「ねえA、イイこと教えてあげよっか」

　シェリーナの声色が艶かしいものへと変わり、リンは恥ずかしそうに目を伏せる。男女共に惑わしてしまうような魅力、それが彼らの長所だった。

「男はみんな鍵を持ってるの。そしてその鍵でいくつ扉を開いたかを自慢したがる。たとえどんなに無造作で乱暴な開け方をしたとしても、それが誇りなのよ」

　彼女は少し間を置いてからこう言った。

「でも、アンタが恋してるなら話は簡単。こちらから扉を開いて招き入れてあげればいい」

「えっと……？」

「つまりはこう。早いとこセッ○スしちゃいなさい」

　不意打ちのストレート発言に近くの席の客がワインを噴き出した。Aは目を丸くし、リンはドッキリを仕掛けられたターゲット顔負けのビックリ顔で固まっている。

「どこで誰に取られるか分からないから、はやく自分のものにしちゃうの。惚れ薬を使ってもいいわ。ていうかそっちほうが手っ取り早いかも」

「……確かに。ありがとう、参考にする」

　こう答えたが、もちろん実行できるわけがなかった。相手は人間なのだから。悪魔が人間界に行くこと自体あまり良く思われないのに、人間と恋仲になるなどもってのほかだ。

　Aは彼に女として見られていないことも分かっていた。人間の彼からすればAはまだ高校生くらいに見えるため、どちらかというと可愛い後輩や歳の離れた妹といった立ち位置であり、恋愛対象ではなかったのだ。

　――この気持ちは死ぬまで明かさない。

　彼には隠し通そう。Aはそう心に決めていた。