13.劣等の先 ページ31
*
｢Aはずるい子だね｣
そう言われては何も返せない。押し黙って隅に埃の浮く廊下を眺める。
部屋を出て長い長い廊下を歩く。
襖を閉め切ったここの薄暗さ、閉塞感は、なんとも息苦しい。
｢恭弥くんはひとりで頑張れてしまう子だから君なんか居なくても生きていけるよ。君はどうして恭弥くんの傍にいるんだろうねえ｣
昔から兄が好きではない。たぶん兄も私を好きではない。と、言うか……。
床の冷たさが足の裏に貼り付いて気持ちが良い筈なのに、兄の地を這う様な他人行儀な声がそれを楽しむことを許さない。緩慢に遅効性の毒を飲まされたような鈍い眠気が頭を支配している。同時に、兄の前で覚醒していなければならないと言う焦りも存在していた。
｢恭弥くんが入れ込んでいるなんて、妬けてしまうね。君はいつでもそう後ろで怯えているだけで、良い御身分だね。怯えるだけなら良かったものをこうして中途半端に巻き込まれて、挙句の果てに無知を望む？気に入らないよ、僕は、昔からずっと｣
ガリ、と爪を噛む音が聞こえる。下を向く私には兄が身に纏った上等な着物が揺れているところしか見えない。
この人は、私を肉親だなんて一度も思ったことがない。
知っている。わかっている。私がそうだから。
それはつまり、倫理も道徳も併せ持たなくて良い人間なのだ。そう私たちは教育されている。そんなのは一般論から大きく外れた常識外なのは理解していても、刷り込まれた固定概念を変えることは難しい。
｢一時期、君をどうにかしてしまおうと考えていたけれど、本当に後悔と言うのは先に立たないものだね。やれば良かった｣
｢どうにか、って、兄妹でしょう｣
｢だから？僕は君に憎悪でも嫉妬でも、あるいは劣情でも抱けるよ｣
この男は、私を妹だと思ってはいない。目障りな女がひとり程度の認識だ。私と恭弥さんを歪だと言い切るには、あまりにも兄は曲がっている。
一言で言えば｢お前が言えることじゃない｣、だ。
｢どうせ恭弥くんは君に手なんか出してないだろう。喜ばしいことなのかな、実の妹が婚約者に対して清廉で。全くどうでもいいことだけれどもね｣
｢……あなたは、私に勝てないではありませんか。手を出すなど適わない夢です｣
そう言えば、歩を止めた兄が振り返り私の胸倉を掴む。
｢何度でも、君が心底絶望するまで言おう。
僕は君が世界一疎ましく、憎く、気持ちの悪い、最低な存在だと思っている。生きている事実すら認めたくないよ。
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さとう(プロフ) - コメント失礼します。とっても面白くて何回も読み返してしまいます！夢主ちゃんと雲雀さんの歪な関係がとてもグッときます。影ながらいつも応援しております。更新無理せず頑張ってください！ (2019年6月18日 23時) (
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作者名：銀竹 | 作成日時：2019年5月28日 20時
