. ページ22
｢勘違い、すればいいんじゃない｣
｢え｣
尚も涼しい顔をする彼が言うにはキツイ冗談だ、と笑えもしない。それは少しばかりタチが悪いのではないだろうか。
冗談、なんですよね？
聞けない。
彼の骨張った手が私の手を絡め取り、指を擦る。ただそれだけのことなのに、何かを煽られているようで羞恥が熱となり指先へと集まる。
｢僕が君に何も言わないのは、待っているからだよ。全部。君が知らないことを、君が求めるまで僕は与えない｣
顔を見ることも叶わず頬を紅潮させる。明らかに赤くなっているのがわかる熱量が頭に留まっている。
お願いだ、これ以上何も言わないでくれ、という願いも虚しく彼は続ける。
｢でも僕も、そろそろ急かしたくなった｣
こっち見て。という言葉と共に片手が私の頬に添えられる。目を合わせば、予想よりも不安げに揺れた瞳が私を捉えている。
なんでそんな目で見てるの。
だって他人と関わろうとしないだろう、あなたは。
口を開こうとすると、快活でいて柔らかい男性の声。
｢おおー！恭弥！お前ここに拠点うつ、し、て……？｣
金髪で、彫りの深い大変顔の整った男が庭先に表れたかと思うとしまった、という顔をする。この状況でしまったと思わない方がおかしいので正常な反応だろう。
恭弥さんが若干私の目尻に溜まった涙を指で掬い、無言で男に向き直る。
｢す、すまん！いやでも恭弥にも好い人ってのがい、いやちょっと待てって｣
必死で弁解を始める男にズカズカと近寄って行く恭弥さん。この敷地内で乱闘騒ぎはまずいので流石に止めようとすれば意外にも恭弥さんは金髪の男の肩に手を置いた。
｢お？おお、話せばわかるよな、ハハ……｣
｢歯食いしばりなよ｣
恭弥さんのやっと発したその言葉に顔を引き攣らせた男の額に、恭弥さんの頭がぶつかる。
明らかに物凄い音を立てたその光景に、思わず失笑が漏れる。
｢A、行くよ｣
｢……この人は｣
｢知らない｣
知らないことは無いだろう。名前まで呼ばれてあれだけ親しげに会話を試みようとしてきた人間だ。
何となく兄の影をチラチラと金髪の男に感じるのもあり、妙な罪悪感があるのだが恭弥さんに早く、と急かされては拒否もできず一言お大事に、などと気休めの言葉をかけてその場を離れた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 84人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
さとう(プロフ) - コメント失礼します。とっても面白くて何回も読み返してしまいます！夢主ちゃんと雲雀さんの歪な関係がとてもグッときます。影ながらいつも応援しております。更新無理せず頑張ってください！ (2019年6月18日 23時) (
レス) id: 501cc7c254 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：銀竹 | 作成日時：2019年5月28日 20時
