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彼女が昔に僕へ一度だけ語った環境は、例え仕方がないと他人が一蹴できても惨いと思えるものだった。
彼女は許可無しに親族への口がきけない。彼女の側から会話は疎か顔を合わせることすら禁止されていた。
ある年母の日で世が沸き立つ中、小学生の彼女が親の絵を描きなさいと教師に言われて、｢どうしても顔を思い出せないのだ｣と切なそうに笑っていた。その時の僕は何も思ってはいなかったけれど、今になれば彼女が僕に初めて漏らしたSOSだったのかもしれない。
残念ながら僕は他人の感情の機微に理解がなかったし、今もきっとそうだ。例え察していても関わりを持つだけ面倒だと見捨てていただろう。
たぶん、何度も僕はそれを見逃してきた。
何度もAの不安そうな笑い顔を見てきた。それでもどうすることも出来ない。彼女がそこから脱しようとしない限り、僕には手の差し伸べようが無い。
僕が与えれば彼女は受け入れてしまう。それが良いと思っているから。どこまでも僕の言うことを聞くし、僕が与えないと強く言えば深くは訊いてこない。
それが世間にとって良い人だと賞賛されるのならば吐き気がする。それはただ、弱く牙も持てない彼女に首輪を付けて飼い慣らし、利用するだけの口実だ。良い人とは、ただその人にとって都合の良い人間なだけだ。
都合の良い者を優しいと褒めそやして、良い人だと取り入って、勝手に利用し、また利用されていることを良しとして馴れ合う。有象無象のその動きが僕は心底嫌いだった。
だからこそ、どう在ろうとひとりで居る彼女を僕は好ましいと思ってしまう。ただそうでいるしか無かった彼女を、結局僕もまた利用するのだろう。
こうしていつもの様に｢知らなくていい｣と真っ青な顔で笑うAを僕は変えられずに居る。
彼女が無知に執着し、依存することを辞めた時、それは僕の隣を離れることを意味する。
僕にはそれが、何となく耐え難いような、どうでもいいような、どちらか曖昧な心持ちで。ただ、腕の中に収めた彼女に、いつか他人という僕らにとっての呪いを受け入れられる日が来ることを願っている。
それが僕の願いなのか、それとも叶えるべき常識の幸せなのかは、判別がつかないままだ。
何年も、何年もずっと、僕らの関係には名前が付かない。
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さとう(プロフ) - コメント失礼します。とっても面白くて何回も読み返してしまいます！夢主ちゃんと雲雀さんの歪な関係がとてもグッときます。影ながらいつも応援しております。更新無理せず頑張ってください！ (2019年6月18日 23時) (
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作者名：銀竹 | 作成日時：2019年5月28日 20時
