ep373 ページ26
—no side—
思わず溢れた涙に、鼻をすすったA。
騒ぎを起こしていた4人はその異変に気づくと、ギョッとして一斉に固まった。
こんな時に泣いている場合ではないとAは自分を叱咤してぐっと目尻に力を入れた。
しかし堪えようとしたはずの目尻からは止めようもないほど涙が流れていく。
それに自分自身で心底驚いた表情をした彼女は、慌てて瞼に腕を押し付け、俯いた。
ここまであからさまに涙を流す参謀の姿が初めての面々は動揺して顔を見合わせる。
いつもは口うるさい彼女が、こんな時ばかり静かに声も無く肩を震わせるのだから……。
どう声をかけるべきなのか分からず、肘で互いを小突き合う。
一通り正解の分からない参謀の慰め役を押し付けあった末、やはりお鉢が回って来たのは長年それを任されていた高杉だった。
「A……」
溜息混じりに参謀へ近づいた高杉は彼女の頭に優しく手を置く。
その感触にかえって余計に涙腺が緩みそうになった瞬間、高杉は言った。
「5秒で泣きやめ」
「出たよ、スパルタ……」
昔から何かある毎に高杉の袖を引いていたAと、そんな彼女をいとも簡単に泣きやませて戻ってくる高杉の秘訣を…
知りたいような知りたくないような、で固唾を飲んでいた他3名は、予想外なその方法に胸中こっそり安堵していた。
しかし当のAはこの「5秒で泣きやめ」がつまり「5秒以内に全部吐き出せば聞いてやる」と同義なのをよく知っていた。
松下村塾から逃げ出したあの嵐の日、辛いならその感情を自分に吐き出してみろと約束した高杉の言葉は本物だった。
「初めてだ……懐かしさで眩暈がするなんて」
高杉はAが吐き出したその言葉に何を返すでもなかった。
きっとここに集った自分達全員がそれと似たものを抱えているのを知っていたから、敢えて何も言う必要はなかった。
「……眼ぇ強く擦るな」
「圧迫止血だから」
「ほざけ」
ようやく戻ってきたらしいいつもの調子の参謀を見た銀時は、少し安心してかつて彼女が言っていた言葉を思い出す。
——いつか、君達と共に戦った過去を肯定できるように……今は今の仲間を守るよ。
落ち着いたAに問いかける。
「俺達といた過去は肯定できそうか?」
その問いに、瞼に押し付けていた手を退かせた彼女は、ゆっくりと顔を上げる。
見慣れない潤んだ瞳、涙の雫が残る睫毛は陽の光を反射させて静かに煌めいていた。
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ギラッフェ(プロフ) - 陽-hisa-さん» いつも楽しみにしてくださってありがとうございます。何よりもの励みになっています!今後とも楽しんでいただけると嬉しいです(^^) (9月2日 0時) (レス) id: 7a3023c2c7 (このIDを非表示/違反報告)
陽-hisa- - お久しぶりです。攘夷とこんなに上手く絡ませている作品、やはり私的にはこの作品が一番です。一番好きです。これからも楽しみにしています。応援しています。 (8月31日 19時) (レス) id: cd440b7134 (このIDを非表示/違反報告)
ギラッフェ(プロフ) - るぅさん» いつもありがとうございます!ベタ褒めしていただいて嬉しい限りです笑 今後ともよろしくお願いします! (8月22日 9時) (レス) id: 1bbdb8d99e (このIDを非表示/違反報告)
るぅ - いつも読ませて頂いてます!大体どの作品も恋愛系の作品が多いのですが、占ツクで面白い作品に出会えると思ってなかったです笑コメント見させて頂きましたが、オチなしの結末を考えているとの事で個人的にホッとしました笑これからも応援してます! (8月21日 21時) (レス) @page48 id: 0469468a88 (このIDを非表示/違反報告)
ギラッフェ(プロフ) - ひーさん» コメントありがとうございます!読み返してくださるのとても嬉しいです!今後ともよろしくお願いします! (8月10日 9時) (レス) id: da4440489d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ギラッフェ | 作成日時:2022年1月26日 0時