ep296 ページ49
「長官……大丈夫、ですか……？」
《なぁ、ばなっちゃん……》
大丈夫なわけなんてないだろうに私の口から出てきたのはそんな陳腐な言葉だけだった。
それに対して私に呼んだ長官の声は異様なほどに平坦。
《なんで世の中ってのは死んじゃいけねぇ善人が死んで、アイツ等みてぇなクソヤローが生き残るんだろうな》
やばい。変な気を起こしかねない。
それこそ仇討ちのために喜々を斬り捨てるくらいしそうな言いぶりだ。
「長官、今どこにいますか？」
《京の御所に決まってんだろぉ》
良かった。早まって江戸に戻ってきたりはしていないらしい。まだ京に留まっているくらいには冷静だということだろう。
そう安堵の溜息を吐いたのも束の間――
《あのクソヤローを殺るのは葬式が終わってからだ》
ピシャリと電気が走ったかのように自分の身体が凍りついた。
「……長官、落ち着いて考えてください。あっちは貴方がそうやって仇討ちを狙うことも承知の上で――」
《それでもやるしかねぇんだよ》
「駄目です。考え直してください。茂々公を失った今、長官にまで何かあったら」
《……。》
切られる――。
直感的にそう思ったし、ここで電話を切られたらきっと何度かけ直そうともう繋がらないのだろうと悟った。
「待ってください、長官っ！！」
ツーツーツー……
予想通りにも程のある無機質な音を聞きながら、私はもはやかけ直す気にもなれなかった。
静かになった部屋で一人、窓の外を眺める。
誰かの血で染め上げたような緋色と、沈みかけた陽が照らしきれない雲の影。
夕陽と夜闇の境界は曖昧で紫のような、藍色のような、赤黒いような……形容し難い色で塗り固められていた。
つい先刻まで綺麗だと思っていた筈の夕陽も今では不気味にさえ思えてくる。
私はふらりと宿を出て黄昏の街を彷徨うように歩いた。
そして目に留まった路地裏に身体を滑り込ませるようにして暗闇の中でうずくまる。
こういう湿っぽい場所の方が頭が回るのは経験のせいか、それとも根が陰鬱なせいか……。
「どうすればいい……考えろ参謀」
風通しの悪い籠もった空気を吸い込んで目を瞑った。
きっと全てあちらの算段通りなのは十中八九当たりだ。
幸い、茂々公の訃報はまだ公には出回ってないし公開するとして明日か明後日。
ならば仇討ちは明後日以降。長官のことだから単身でけじめをつけようとするはず。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1082人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「銀魂」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ギラッフェ(プロフ) - ゆうゆさん» コメントありがとうございます！楽しみにして下さってて本当に嬉しいです。これからもよろしくお願いします！ (2021年3月1日 1時) (
レス) id: c665168944 (このIDを非表示/違反報告)
ギラッフェ(プロフ) - ひなたさん» コメントありがとうございます！テストに間に合ってよかったです。これからもよろしくお願いします！ (2021年3月1日 1時) (レス) id: c665168944 (このIDを非表示/違反報告)
ゆうゆ - 更新凄く楽しみに待ってました！応援してます、これからも頑張ってください！！ (2021年2月26日 1時) (レス) id: 90e018deaa (このIDを非表示/違反報告)
ひなた(プロフ) - めちゃめちゃ楽しみにしてました！これからの展開が楽しみですこれで明日のテスト頑張れます！ (2021年2月26日 1時) (レス) id: a90e951796 (このIDを非表示/違反報告)
ギラッフェ(プロフ) - じゅうぞうさん» コメントありがとうございます！なかなか更新できずすみませんでした。応援ありがとうございます！ (2021年2月26日 1時) (レス) id: c665168944 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ギラッフェ
| 作成日時：2020年8月29日 0時
