ep277 ページ30
凍りつく私に
「何も心配はいりませんよ」
柔らかい声色で近づき、手を伸ばす松陽。
だがもはやそれすらただの恐怖だった。
細められた瞳も、
柔和な笑みも、
何もかも……
その裏に何か隠しているようにしか見えない。
怖い…
そして松陽の指先が前髪に触れたその時――
一気に全身の身の毛がよだち、私はその場に置いてあったハサミを引っ掴んで彼を振り払った。
勢い余った切っ先は松陽の頰をかすめ、そこに赤い筋が走る。
思わず仰ぎ見た彼の表情は、ひどく哀しげで胸が締め付けられた。
「A……」
だが私はその先、何を言われるかが急に怖くなり、
流れ出た血が松陽の頰をつたっていくのを見る間も無く、裸足のまま逃げ出した。
松下村塾の門をくぐり、走って走って走り続けた。
行く宛なんてどこにもないのに。
背後から誰かが追ってきていないか確認することすら怖くて、ただただ走り続けた。
そして息の吸い方も分からなくなった頃、激しい咳と共に立ち止まれば
肺が焼けたかのように痛いことに気がついた。
辺りを見渡したが、見知ったものは何一つなかった。
あまりに吹きさらしのその場に立ち尽くし、初めて感じたのは孤独。
「……気付いても黙っててくれたらよかったのに」
思わず口をついて出た言葉で私はやっと気づいた。
松下村塾がすでに自分にとってかけがえのない場所になっていたことを……。
だけどもう遅い。
唇を噛みしめれば松陽のあの哀しげな表情が浮かぶ。
瞬間、渦巻く罪悪感。
でも私の“眼”のことを知られた以上、そうするしかなかった。
私はもうこの“眼”を使いたくないんだ……
――自分のためにも他人のためにも……
なら私のことも私の“眼”のことも知らない人間の中で生きていくしかないじゃないか。
もう、うんざりなんだよ。自分にも、自分の“眼”にも……
ぐっと拳を握りしめたその時、ぽつりぽつりと降り出した雨粒。
濁った空の色を見上げ、私は雨をしのごうと路地裏に身を潜めた。
1082人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「銀魂」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ギラッフェ(プロフ) - ゆうゆさん» コメントありがとうございます!楽しみにして下さってて本当に嬉しいです。これからもよろしくお願いします! (2021年3月1日 1時) (レス) id: c665168944 (このIDを非表示/違反報告)
ギラッフェ(プロフ) - ひなたさん» コメントありがとうございます!テストに間に合ってよかったです。これからもよろしくお願いします! (2021年3月1日 1時) (レス) id: c665168944 (このIDを非表示/違反報告)
ゆうゆ - 更新凄く楽しみに待ってました!応援してます、これからも頑張ってください!! (2021年2月26日 1時) (レス) id: 90e018deaa (このIDを非表示/違反報告)
ひなた(プロフ) - めちゃめちゃ楽しみにしてました!これからの展開が楽しみですこれで明日のテスト頑張れます! (2021年2月26日 1時) (レス) id: a90e951796 (このIDを非表示/違反報告)
ギラッフェ(プロフ) - じゅうぞうさん» コメントありがとうございます!なかなか更新できずすみませんでした。応援ありがとうございます! (2021年2月26日 1時) (レス) id: c665168944 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:ギラッフェ | 作成日時:2020年8月29日 0時