【文スト】最終兵器に宜しく。陸

ep219 ページ7

「……死んだ筈では」

「うん！それ辞めた！！」


辞めた……？辞めたって如何……？

溌剌として云う彼に相対して此方の脳内は混沌を極めていく。
フョードルの台本に背いて謀反を起こしたということか？否、それすら魔人の策略という可能性は……？




……解らない。今此の瞬間が“最悪の事態”なのか否か。

そして振り切って逃げる術もおそらく無い。
触れなければ発動しない私の異能と、その触れる為の空間を断絶出来る彼の異能。

此方が不利なのは火を見るより明らかだ。



ならば……


私は後ろ手に隠し持っていた通信機を起動させた。


「……フョードルを裏切ってまで、何が目的ですか？」


ならば聞き出すしかない——そしてその情報を判断できるだろう名探偵に託すしかない。


「目的……それはね——」

突如纏う雰囲気をがらりと変え、しとやかに語る。


「我が親友を殺して感情という洗脳から自身を解放し、真の自由意志を証明する為さ」


混乱が加速する。


「……つまり貴方の生存はフョードルすら知らないと？」

「うん！今のところはね！！」


……また道化師に戻った。


「……彼の外部との連絡手段は？」

「知らないよ〜本来私は序幕で退場する筈だったんだから！」



何一つ有益な情報が得られない。
思わず冷汗が滲んだ瞬間、



「ハーイ！そろそろいいよね、没収ー！」


突如、触覚が失われて見れば通信機は彼の手の中で砕かれ、私の腕はまた彼の外套から不気味に生えていた。


空間接続……矢張り分が悪い。



空に浮かんでいた月はすっかり暗雲に呑まれ、辺りは一面闇に包まれる。



……諦めよう。別にこうなった時の覚悟が無い訳ではないのだから。

何時ぞやの首領の言葉が蘇る。
私の異能の性質を知る者からすれば私は利用するか、消すかの二者択一だと。

現時点殺されていないと云うことは前者だろう。それが一縷の希望になり得るかはさておき、みすみす殺されるわけにいかないのだから選ぶべき答えは自明だ。



「……また月夜に独り出歩いた、私のミスですか」

「……嗚呼、以前そんなことを云ったね」


「貴方の所為で月が嫌いになりそう」



肩に掛けた侭だった買い物袋を手放す。



「詳しくは移動し乍ら話そうか」


その声を最後に、私は真っ暗な空間へと飲み込まれた。




その後暫くして、通信を聞いた探偵社が駆けつけた時には、店内はもぬけの殻。


雑多に散らばった買い物袋の中身だけが、床に残されていた。


　
　

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