ep218 ページ6
荒廃した街の煉瓦を重苦しく踏み越え、伽藍堂になった店の中を見渡した。
私が食糧確保役に任命されたのは此処最近のこと。
万が一、吸血種に襲われようとも私ならば彼等が噛み付く前に異能力で制圧または無効化できるだろうという万が一の保険で。
灯りもつかず冷却システムも働かない異様な光景にも幾分か慣れ、至って悠々と物色し乍ら籠の中を満たしていく。
破壊し尽くされた此の街からは既に人間も吸血種も姿を消していた。
その震源地は事もあろうかポートマフィアの拠点。ヨコハマのみならず世界中が阿鼻叫喚の渦に叩き落とされた。
勿論、首領とはあの日以来連絡がついていない。
そんな——ずっと張り詰めたピアノ線の上を歩かされているような緊張感の中、何かやるべき事があってアンの部屋から抜け出せるというのは正直有り難かった。
おそらく、探偵社の彼等はそれをも見越して私にお遣いを託したのだろうが……
通常運転のお人好し具合である。
カラン……
無人のレジにお代を置くと小銭の音が空虚に反響した。
こんな状況でも購入したものにはきちんと代金を支払えと、毎回アンの部屋を出る前に態々念押しされる。勿論、国木田さんだ。
こんな有事に誰も気を留めないだろうに。律儀な話だ。
「……あんな人達がテロなんて……阿呆らしい」
しかしそれを未だ信じている者達がいる、現実に起こっている。その事実こそ例の『頁』の力の強大さを物語っているのだろう
そんなことを思いながら、買い物袋をグイと持ち上げた時だった————。
「やぁやぁ!世界の終末に呑気にお買い物かい?狂ってるねぇ!さすがドス君の見込んだ子だ!」
聞き覚えのある声に躯が凍りついた。
軋む首を回して振り返ると真っ暗な店内に1人——純白の外套。
その実、彼の白は私の眼には絶望の黒に近かった。
「ゴーゴリ……」
「えぇ!?私の名前覚えてくれてたのかい!?感激で胸が張り裂けんばかりだよ!!」
暗闇の中で唯一月光を反射し乍ら台本でも読み上げるようなその姿は、まるで舞台を愉しむ道化師そのものだった。
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ギラッフェ(プロフ) - うどんさん» いつも作品愛を届けてくださりありがとうございます!原作ファンの一員としてなんとか良いストーリーを!と思っています笑 来たる年もぜひ宜しくお願いします! (12月31日 0時) (レス) id: 046a0c810f (このIDを非表示/違反報告)
うどん - 更新されるたびにいつもギラッフェさんにメッセージを送りたいほどギラッフェさんの作品を愛しています!!ギラッフェさんの作品はいつも作品に引き込まれるほどの素晴らしいストーリーだと思います!!原作の展開が予想できず大変だと思いますがこれからも応援しています! (12月28日 23時) (レス) id: b2d2242acf (このIDを非表示/違反報告)
ギラッフェ(プロフ) - 雪だるまさん» 楽しんでいただけて何よりです!応援いただきありがとうございます! (12月11日 22時) (レス) id: 608d959404 (このIDを非表示/違反報告)
雪だるま - ストーリーが繋がってきて、楽しいです!頑張ってください! (12月11日 19時) (レス) @page9 id: 34bbee5856 (このIDを非表示/違反報告)
ギラッフェ(プロフ) - うどんさん» コメントありがとうございます!そう云っていただけるのが何より嬉しいです。是非是非今後ともよろしくお願いします! (11月24日 18時) (レス) id: 1ed6621db5 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ギラッフェ | 作成日時:2023年11月14日 23時