【文スト】最終兵器に宜しく。陸

ep217 ページ5

次なる探偵社の作戦は時計塔の従騎士から移送される大指令(ワンオーダー)を奪還し破壊すること。

そしてその裏で吸血種の主を殺し、異能の発動を止めること。


幾重にも重ねた策を確認し乍ら、ふと乱歩さんを垣間見る。

今度こそ油断はしない、凡てを疑うと決めた乱歩さんの纏う空気は今迄のどの時より鋭く、張り詰めていた。

思わず背筋が伸びる。


そして長きに渡った探偵社の作戦会議が終幕に近づいた時、彼は最後にこう告げた。


「そしてブラム・ストーカーの方は君が鬼札だ」


乱歩さんの翠の瞳と交差する。彼の視線の先を追って、会議の席についた皆の視線が一点——私に集まった。



「捜索は探偵社が行うが奴の殺害が困難だと判った場合、君の異能を遣って吸血種の異能を無効化する」


「……前回、小説世界で考えた方法を遣って、ですか？」

「そうだ。探偵社の誰がブラムを発見しても君を直ぐ召喚できるよう、ポオ君には同じ内容の小説を人数分用意して貰った。君は何時でも空港の何処にでも現れることが出来る」


それは私と乱歩さんが小説世界に籠るしかなかったあの時に考えたものだった。

小説が複数あるとなれば、前回のように本が斬られたら終わりというリスクは無い。1冊が斬られようと別の本から脱出が可能だ。

確かに、ブラム伯爵の息の根を止めるよりも私が一瞬触れて異能を封じる方が幾分も容易だろう。
地獄絵図となった世界の為にも一刻も早く吸血種の異能は解除するべきだ。



しかし……



「……それでも未だ安心は出来ないか」

国木田さんの言葉に静かに頷いた。

組んでいた指と指の隙間に視線を注ぐ。

そう、それでも私は安堵できない。
これは誰の頭脳が不足しているわけでも、実力が足りないのでもない。

仮令地の果ての牢獄であろうがフョードルが此の世に生きている限り続く、彼の悪性と恐怖による支配だ。



「鬼札……ということは切り札ではない、と」


尋ねた私に、乱歩さんはこちらの心情など凡てを透かして見たかのように答える。

「嗚呼、在れば在るで結構。あくまで備えあれば憂いなしだ」


相変わらずの最終兵器ぶりという訳か。だがそれで善い、今回ばかりは切り札でないことに感謝すら感じる。

鬼札は化け札、所謂ジョーカー。“最後の切り札”ではない。あれば優勢だが無くても負けはしない。

しかし優勢であることに変わりはない。つまりそういうことだ。



「わかりました。鬼札、巧く遣ってください」



　

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