ep233 ページ21
—シグマside—
「この注射を打てば30分で死ぬのだね?」
「そう!全身から血を噴き苦しみながらね!」
「芸術ですね」
致死毒の注射器を片手に歓談する3人。
その様子を見ながら私は確信する。此の部屋でまともな人間は自分だけだと。
しかし、その時ついと掴まれた服の感触。
そこには今や固く口を閉ざした侭、事の進みを静観している最終兵器がいた。
……訂正しよう。
此の部屋でまともな人間は私と彼女だけだと。
それが気休めになるのか、傍らで私の服の端を摘んでいる最終兵器。
その気休めも、かの3名から私を盾にするように立っているのも……きっと彼女自身は無意識なのだろうが。
御し難いほどの動揺で取り乱していた姿はもうない。
しかし肩を掴んだあの瞬間、在らん限りの力で唇を噛み締め、肩を震わせていた彼女を見て一番に浮かんだのは、意外、という感想だった。
柄にもなく——と云えるほど歴も深くないが、自身が攫われてさえも飄々としていた様子からは想像もできなかったのだ。
自分が足手纏いになり誰かを危険に晒すと知った瞬間、取り乱して涙さえ浮かべるほど人の心があるということに……純粋に驚いた。
ゴーゴリから聞いたドストエフスキーの最高傑作にしてポートマフィアの最終兵器の存在。
その異常な肩書きに戦々恐々としていた私は、この制服の少女に道中すっかり肩透かしを喰らっていた。
余りに“普通”だったのだ。
破滅的でも壊滅的でもなく、語る言葉はまるで哲学の手引き書のように普遍的で理想的だった。
故に、私は未だに解らない。
何故彼女がかの魔人の“最高傑作”であるのか——。
そして思う。
きっと彼女自身もそれを知らないのだろうと。
彼女から問題の3人に視線を戻せば、
「勝負は簡単!2人にその致死毒を注射して貰い、先に脱獄した方がこの解毒薬を得る」
解毒薬はスーツケースに収まるそれ一つだけ。
つまり————
「30分以内にぼくと太宰君、どちらかが死ぬ」
ドストエフスキーの言葉で、服の端は一層強く掴まれた。
「ンー太宰君には申し訳ないが、此処までしないとドス君は毒を呷らないからね」
「何故、謝るんだい?これぞ最高の好機、天の恵みだ」
「もう勝つ気かい?」
「それ以外に何の結末が……?」
致死毒を笑いながら注射する2人に、却ってこちらの気分が悪くなった。
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ギラッフェ(プロフ) - うどんさん» いつも作品愛を届けてくださりありがとうございます!原作ファンの一員としてなんとか良いストーリーを!と思っています笑 来たる年もぜひ宜しくお願いします! (12月31日 0時) (レス) id: 046a0c810f (このIDを非表示/違反報告)
うどん - 更新されるたびにいつもギラッフェさんにメッセージを送りたいほどギラッフェさんの作品を愛しています!!ギラッフェさんの作品はいつも作品に引き込まれるほどの素晴らしいストーリーだと思います!!原作の展開が予想できず大変だと思いますがこれからも応援しています! (12月28日 23時) (レス) id: b2d2242acf (このIDを非表示/違反報告)
ギラッフェ(プロフ) - 雪だるまさん» 楽しんでいただけて何よりです!応援いただきありがとうございます! (12月11日 22時) (レス) id: 608d959404 (このIDを非表示/違反報告)
雪だるま - ストーリーが繋がってきて、楽しいです!頑張ってください! (12月11日 19時) (レス) @page9 id: 34bbee5856 (このIDを非表示/違反報告)
ギラッフェ(プロフ) - うどんさん» コメントありがとうございます!そう云っていただけるのが何より嬉しいです。是非是非今後ともよろしくお願いします! (11月24日 18時) (レス) id: 1ed6621db5 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ギラッフェ | 作成日時:2023年11月14日 23時