ep215 ページ3
「そんな自暴自棄になって、なんで自分を責めるんだい?」
責めたいのか……解らない。ただ私は——
「彼の殉死を聞いた時、私は組織員を守れなかったことを嘆きました。芥川龍之介というあの人自身の死を悼むより先に……」
私は太宰さんに他人の命など本当はどうでもいいのだろうと指摘されたあの時から何も変わっていないのだ。
失われた命よりそれによって空いた穴を悲しんだ。
所在のなさと居心地の悪さで裾をグッと握りしめた時
「その二つは何が違うンだい?」
予想外の彼女の言葉に私は頭の中が真っ白になって二の句が継げなかった。
「芥川が死んで悲しい、悔しい。そういうことだろう?そこに根拠を探すから可笑しなことになるンだよ。人の死を悲しむのに根拠なんか要らない」
「そういうもの、ですか……」
そう尋ねた私に、見上げた先の蝶の髪飾りがちらりと光る。
そして与謝野女医は「嗚呼……そうか」と言い乍ら先刻まで胸の前で組んでいた腕を腰に当て、優しい眼差しを注いだ。
「アンタ、自分に近い人間が死ぬの初めてなんだね」
あ……
まるで身ぐるみ凡て剥ぐような指摘に、我ながら自分の中のどうしようもない感情の理由がやっと腑に落ちた。
そうか、
私は初めて、人の死を悲しんでいるのだ。
思わず俯いた私に、「はい」と云って新しいフォークを手渡した敦君。それを受け取り、
「すみません、きっと八つ当たりでした」
「謝ることじゃアないさ」
私は目の前の食事を平らげた。
「では腹ごなしも済んだことだ、次の策を話し合うぞ」
国木田さんの声に皆が集まり、此処に至るまでに何が起こり誰が敵で誰が味方であったかをつぶさに共有した。
「——で、立原は《猟犬》の一人だった」
遠慮気味にこちらを一瞥されるが、正直もう新しく得る情報に一喜一憂出来るほどの暇は無いと堪える。
だが成程ならば合点がいく。マフィアの隠し通路が軍警に露呈している時点でその可能性に気づくべきだった。
しかし私は拭い去れない侭でいた。
意識のど真ん中で鎮座する、別の大きな違和感を——。
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ギラッフェ(プロフ) - うどんさん» いつも作品愛を届けてくださりありがとうございます!原作ファンの一員としてなんとか良いストーリーを!と思っています笑 来たる年もぜひ宜しくお願いします! (12月31日 0時) (レス) id: 046a0c810f (このIDを非表示/違反報告)
うどん - 更新されるたびにいつもギラッフェさんにメッセージを送りたいほどギラッフェさんの作品を愛しています!!ギラッフェさんの作品はいつも作品に引き込まれるほどの素晴らしいストーリーだと思います!!原作の展開が予想できず大変だと思いますがこれからも応援しています! (12月28日 23時) (レス) id: b2d2242acf (このIDを非表示/違反報告)
ギラッフェ(プロフ) - 雪だるまさん» 楽しんでいただけて何よりです!応援いただきありがとうございます! (12月11日 22時) (レス) id: 608d959404 (このIDを非表示/違反報告)
雪だるま - ストーリーが繋がってきて、楽しいです!頑張ってください! (12月11日 19時) (レス) @page9 id: 34bbee5856 (このIDを非表示/違反報告)
ギラッフェ(プロフ) - うどんさん» コメントありがとうございます!そう云っていただけるのが何より嬉しいです。是非是非今後ともよろしくお願いします! (11月24日 18時) (レス) id: 1ed6621db5 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ギラッフェ | 作成日時:2023年11月14日 23時