【文スト】最終兵器に宜しく。陸

ep232 ページ20

……どうすれば善かった？


考えても何も浮かばない。


否、私は想定できないのだ。

“フョードルが負ける”という事象が。その結末の可能性が、微塵も想像できないのだ。


『何故今迄それを疑問に思わなかったんだい？洗脳されているのは君の方だろう』


ゴーゴリの言葉が甦って吐き気に襲われた。




どうしよう……


どうしたらよかったんだろう……


こうなるのなら此処へ辿り着く前に逃亡すべきだったのだ。異能を遣う余地が無くとも、それでも決死の覚悟で。


この侭では凡てが消え去ってしまう。


探偵社が汚名を着せられ乍らも奮闘する意味も

ポートマフィアが吸血種の震源地になってでも彼等を助けた意味も

芥川さんが命を賭して黒幕の存在を暴いた意味も

今、彼等が《猟犬》と対峙して世界を守ろうとしている意味も


凡て、


すべて……



塵のように消え去ってしまう。




“人質(わたし)”なんぞがいる所為で————。




噛み締めた唇が震える。


私に何が出来たと云うのだろう。


こんなことになるのなら……

探偵社(かれら)の足手纏いになるくらいなら——


捕まると知ったあの時、私は死んだって——…





　





「狼狽えるなッ！」




その瞬間、遠慮の無い力で肩を揺さぶられた。

顔を上げた先には眩し過ぎる白とシグマさんの声。



「お前がどうしようとどうなろうと此処に至った。無駄に省みるな！お前が云ったんだぞ、人間とはそういうものだと」

「……っ、……」


私はその言葉に何も返せず、再び俯いた。


思想と言動は必ずしも一致しない。
そう考えるからと云って、その通りに行動できるとは限らない。

云ったじゃあないか、私もまだ練習中なのだと。


なのに……


そんなところまで、彼は敦君に似ているらしかった。


私は俯いていた頭を少し上げる。
しかしそれでも太宰さんを直視することはできない侭で……。


　

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