ep229 ページ17
「先ほどの上の騒ぎは君が侵入した所為だね?」
「ぼく達を監房から出した目的は何です?」
すっと立ち上がって問う彼等。
既に警備隊が動いている……となればあまり此処に長居することも出来ない
だろうに
「あああ我が親友!逢いたかったよ!君の無事を知れて胸が張り裂けんばかりだ!!」
そう云ってフョードルと熱烈な握手を交わし始めるゴーゴリ。どうせ此処から例の冗長な語りが始まるのだろう。
ふと眼を逸らせば太宰さんの視線と交差した。
呆気なく捕まり此処まで連行されていることは、坂口さんを介して彼の耳にも入っていたことだろう。
どの面を提げれば善いやら——不甲斐なさで眼を逸らそうとしたらそれより先に、ふっと柔和な笑みを浮かべる彼。
この状況でその笑みが安堵でも労いでも無いのは明白だ。……ならば何を意味しているのか。
私には解らなかった。
太宰さんの無事に対する安堵とフョードルの無事に対する焦燥で既に脳内は濁流の渦。これ以上は吐き気でも催して頭がおかしくなりそうだ。
しかしそれでも、一見柔和なようでいて何か値踏みしているようなその瞳には厭な既視感があった。
その既視感の正体を見つけようと脳を回した次の瞬間、
「私が此処に来た理由なんて決まってるだろう!!」
響き渡る大仰な台詞で、掴みかけたその心当たりを逃す羽目になった。
「——君をブチ殺す為だよ」
静まり返る部屋でゴーゴリの声だけが反響する。
「……ワァオ」
素っ頓狂な太宰さんの声で、流石の彼でもこの道化のことは予測不能らしいと悟る。
「親友を救いたいというこの情動は実に揺るがし難い!故に不退転の意志でそれを打破する!それこそヒト種の自由意志の証明!!」
大腕を広げて語るゴーゴリに溜息を吐けば、シグマさんのそれと重なった。
はて、彼は先刻のスピノザの話をきちんと聞いていたのだろうか。疑いたくなるばかりだ。
「君……善い友達持っているねぇ」
太宰さんの嫌味に何か返すこともなく沈黙するフョードルを珍しく思いながら、しかし道化の口上は続く。
「だがだがだが!此処で哲学的難問が1つ!
単に私がドス君を殺してもそれは『自由意志を証明したがる己の本能』——つまりは動物的感情の証明にしかならないのではないか!?」
嗚呼、そこには気付いたのか……。少しは諭した甲斐があったらしい。
私は唯、観劇でもするかのように大袈裟な語り草を聞き流していた。
250人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ギラッフェ(プロフ) - うどんさん» いつも作品愛を届けてくださりありがとうございます!原作ファンの一員としてなんとか良いストーリーを!と思っています笑 来たる年もぜひ宜しくお願いします! (12月31日 0時) (レス) id: 046a0c810f (このIDを非表示/違反報告)
うどん - 更新されるたびにいつもギラッフェさんにメッセージを送りたいほどギラッフェさんの作品を愛しています!!ギラッフェさんの作品はいつも作品に引き込まれるほどの素晴らしいストーリーだと思います!!原作の展開が予想できず大変だと思いますがこれからも応援しています! (12月28日 23時) (レス) id: b2d2242acf (このIDを非表示/違反報告)
ギラッフェ(プロフ) - 雪だるまさん» 楽しんでいただけて何よりです!応援いただきありがとうございます! (12月11日 22時) (レス) id: 608d959404 (このIDを非表示/違反報告)
雪だるま - ストーリーが繋がってきて、楽しいです!頑張ってください! (12月11日 19時) (レス) @page9 id: 34bbee5856 (このIDを非表示/違反報告)
ギラッフェ(プロフ) - うどんさん» コメントありがとうございます!そう云っていただけるのが何より嬉しいです。是非是非今後ともよろしくお願いします! (11月24日 18時) (レス) id: 1ed6621db5 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:ギラッフェ | 作成日時:2023年11月14日 23時