ep226 ページ14
「……質問を解り易くしましょうか」
不意に先刻のタイの結び目が気に喰わなくなってもう一度解いた。
「もし貴方に記憶があれば、ああまでして天空カジノを必死で守る必要性は無かったと考えますか?」
記憶を持たぬ自分に唯一与えられた天空カジノという家。それの為に彼は“凡人”の身で在りながら《猟犬》とまで一戦交えた。
しかし、その実——
「……否、記憶が有れどもあれを切り捨てることはない」
そうだろう。
「それが答えです」
私はもう一度結び直したタイの、その収まりの良さに満足して息を吸った。
「余談ですが、私自身記憶を取り戻す前後で、変わったことなど特にありません」
寧ろ私を変えたのは他者との出逢いやそうして出逢った彼等の言動だった。
「故に私はこう結論付けました。人間の本質は、記憶などといういつか薄れる矮小なものではなく、存在そのものにあるのだと」
たられば、もし…を先頭に付けてどんな可能性の自分を仮想しようと、どの私も辿る道はきっと同じ。同じ選択をして同じ“今”に辿り着いただろうと……そう考える。
「先程の答えを聞く限り、貴方も同じでは」
“シグマという存在”が生み出された時点で、彼の本質は彼自身と決まっているのだ。私の立場から云うのならば記憶にこだわる必要など無い。
「よって大切なのは今この世界に存在する貴方自身が何をしたいのか、何をするべきなのか、ということです」
ふと一瞥した横の当事者は、ひとり何かを思案し振り返っているような表情をしていた。
ヘリの揺れと沈黙に身を預けて暫く、
「……私が何をしたいか、するべきか……」
「難しいですよね。私も或る人に云われて練習中です」
「だが、確かに何か腑に落ちたところはあるな」
「そうですか……それは善かったです」
緩やかに微笑んだシグマさんを見て視線を正面に戻した。
その視界に入った意地の悪いゴーゴリの表情。
厭な予感がして眉を寄せた瞬間、彼は口を開く。
「随分と高尚な励まし方をするんだね、君?
でもシグマ君に善いことを教えてあげよう。そんな彼女も、散々その異能で屍体を操り敵を屠ってきた——君の嫌いな“天才”の一人だよ」
……嗚呼、本当に難儀だ。
あの鬱屈していた頃の私より余程。
この状況を捏ねくり回して何が楽しいのやら……。
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ギラッフェ(プロフ) - うどんさん» いつも作品愛を届けてくださりありがとうございます!原作ファンの一員としてなんとか良いストーリーを!と思っています笑 来たる年もぜひ宜しくお願いします! (12月31日 0時) (レス) id: 046a0c810f (このIDを非表示/違反報告)
うどん - 更新されるたびにいつもギラッフェさんにメッセージを送りたいほどギラッフェさんの作品を愛しています!!ギラッフェさんの作品はいつも作品に引き込まれるほどの素晴らしいストーリーだと思います!!原作の展開が予想できず大変だと思いますがこれからも応援しています! (12月28日 23時) (レス) id: b2d2242acf (このIDを非表示/違反報告)
ギラッフェ(プロフ) - 雪だるまさん» 楽しんでいただけて何よりです!応援いただきありがとうございます! (12月11日 22時) (レス) id: 608d959404 (このIDを非表示/違反報告)
雪だるま - ストーリーが繋がってきて、楽しいです!頑張ってください! (12月11日 19時) (レス) @page9 id: 34bbee5856 (このIDを非表示/違反報告)
ギラッフェ(プロフ) - うどんさん» コメントありがとうございます!そう云っていただけるのが何より嬉しいです。是非是非今後ともよろしくお願いします! (11月24日 18時) (レス) id: 1ed6621db5 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ギラッフェ | 作成日時:2023年11月14日 23時