ep225 ページ13
無意識の内にそれを思考するのを避けていたが矢張り彼等二人と私は似ているのだ。
フョードルの支配から逃げて自由を求めた私と、今其れを成そうとしているゴーゴリ。
記憶の始点が無く、自分という存在の薄弱さに怯えていた私と、今其れに苦しむシグマさん。
彼等の境遇はまるで嘗ての自分と同じだ。
賛同は出来ずとも否定は出来ない。
否、正確に云おう。
過去の自分を棚に上げ、「お前もそうだったろうが」と批判されること覚悟の上で、他者を否定する勇気が私には無い。
不意に横目で見た隣の彼はまだ視線を泳がせている。
関心はあれど何から聞けば善いのか分からないといった様子に、難儀な人だ…と胸中で呟いた。
『頁』の力によって本来存在しなかった筈の“人間”さえ生み出すことができるのなら——それはあまりにも此の世の理を歪めてはいないかと。
彼の出自を知った瞬間は、危機感と一種の鬼魅の悪さまで感じた。
しかし蓋を開けてみれば、今隣に座るシグマという彼は、本来生まれてこない筈だった“人間”でありながら此処にいる誰よりも人間らしい。
だから自分の居場所を守る為、敦君の眩しさに共鳴までした彼を引っ掴まえて「お前は人間擬きだ」などと云える訳もないのだ。
だのに、当の彼自身は其れをいまいち自覚していないらしい。
依然口を開こうとしない彼に痺れを切らして
「では私が貴方に尋ねましょうか。きっとこの問いの先に貴方の聞きたいことも得られるでしょうから」
私は先刻の押し問答で乱れた服を整え乍ら提案した。
「もし記憶を持って生まれたのなら、貴方はどう生きましたか」
胸元のタイを結び直す片手間の問いに、彼は眉を寄せて返す。
「質問の意図が分からないのだが……」
「記憶の有る無しに執着する意味について考察しようかと。哲学
彼が記憶が無い自分に何か致命的な欠陥のようなものを感じ、自らを“凡人”と定義する姿に私はずっと引っかかりを感じている。
始めこそ《天人五衰》の名には不釣り合いにも見える異能への劣等感かと思ったが、どうやらそうではないらしい。
矢張り彼にとって最も懸案する対象は自分の記憶なのだ。
しかし、それはそもそも持たぬ者は持たぬ物の価値を過大評価し必要以上に求める——無いもの強請りの延長線に過ぎない。
私はそれをよく知っている。
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ギラッフェ(プロフ) - うどんさん» いつも作品愛を届けてくださりありがとうございます!原作ファンの一員としてなんとか良いストーリーを!と思っています笑 来たる年もぜひ宜しくお願いします! (12月31日 0時) (レス) id: 046a0c810f (このIDを非表示/違反報告)
うどん - 更新されるたびにいつもギラッフェさんにメッセージを送りたいほどギラッフェさんの作品を愛しています!!ギラッフェさんの作品はいつも作品に引き込まれるほどの素晴らしいストーリーだと思います!!原作の展開が予想できず大変だと思いますがこれからも応援しています! (12月28日 23時) (レス) id: b2d2242acf (このIDを非表示/違反報告)
ギラッフェ(プロフ) - 雪だるまさん» 楽しんでいただけて何よりです!応援いただきありがとうございます! (12月11日 22時) (レス) id: 608d959404 (このIDを非表示/違反報告)
雪だるま - ストーリーが繋がってきて、楽しいです!頑張ってください! (12月11日 19時) (レス) @page9 id: 34bbee5856 (このIDを非表示/違反報告)
ギラッフェ(プロフ) - うどんさん» コメントありがとうございます!そう云っていただけるのが何より嬉しいです。是非是非今後ともよろしくお願いします! (11月24日 18時) (レス) id: 1ed6621db5 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ギラッフェ | 作成日時:2023年11月14日 23時