ep214 ページ2
「……A、せめて何か食べな」
声と共に視界が明転する。
適当に開いた本で顔を覆いソファに横たわっていた私は、与謝野女医に本を取り上げられて仕方なく上半身を起こした。
だが仮令そうしたところで食欲は微塵も湧いてこない。
「……要らないです」
「腹減ってなくても食べな」
半ば押し付けられるように渡された食事を受け取り、じっと見つめる。
芥川さんがあの船に乗り合わせたのは偶然か必然か……おそらく太宰さんの指示だったのだろう。
ならば彼の死も想定内の必然だったのか?
まさかそんな……彼をみすみす死なせる訳がない。ならば救える算段があった上で送り込んだのか?
だとすればその“算段”とは、私だったのではないか……?足手纏いだろうが戦況に介入して撹乱すべきだったのではないか?
私が彼を救うべきだったのではないか——最終兵器として。
カキン…
手中にあったフォークが落ちて音を立てた。
「A……振り返って塞ぎ込んだってどうにかなることじゃアない。今は次の策を考えて——」
「考えて……?」
思わず口から出た言葉が与謝野女医のそれを遮る。
「考えて、それで一体私に何が出来るんですか?」
落ちたフォークをじっと見つめ乍ら問う。
「屍体が無ければ大して役に立たない異能で、最終兵器などと大層な役回りの癖に自分の組織の人間一人守れず、寧ろ守られて死なせた。
そんな私に、何が出来ると云うんですか」
もう何もかも遅い。芥川龍之介は死んだ。
「そんなの——……」と口を開いた与謝野女医の答えはきっと喉が焼けつくくらい優しくて甘い慰めか、それでも前を向いて進めという痛いくらいの発破だろう。
……ならば耳に入れたくはない。
「いいですよね、貴女はその異能で仲間の迫る死など断ち切って、無かったことに出来る。そんな貴女に何を云われたところで——……ッ」
思考を放棄した口はぺらぺらと回る。私はハッとして口をつぐんだ。そして恐る恐る彼女を見上げる。
……云ってはいけないことを云った。
彼女がその異能ゆえに苦しんだ過去を知っておきながら、その景色を見ておきながら「いいですね」なんて……
「…………すみません」
掻き消えるような声しか出なかった。
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ギラッフェ(プロフ) - うどんさん» いつも作品愛を届けてくださりありがとうございます!原作ファンの一員としてなんとか良いストーリーを!と思っています笑 来たる年もぜひ宜しくお願いします! (12月31日 0時) (レス) id: 046a0c810f (このIDを非表示/違反報告)
うどん - 更新されるたびにいつもギラッフェさんにメッセージを送りたいほどギラッフェさんの作品を愛しています!!ギラッフェさんの作品はいつも作品に引き込まれるほどの素晴らしいストーリーだと思います!!原作の展開が予想できず大変だと思いますがこれからも応援しています! (12月28日 23時) (レス) id: b2d2242acf (このIDを非表示/違反報告)
ギラッフェ(プロフ) - 雪だるまさん» 楽しんでいただけて何よりです!応援いただきありがとうございます! (12月11日 22時) (レス) id: 608d959404 (このIDを非表示/違反報告)
雪だるま - ストーリーが繋がってきて、楽しいです!頑張ってください! (12月11日 19時) (レス) @page9 id: 34bbee5856 (このIDを非表示/違反報告)
ギラッフェ(プロフ) - うどんさん» コメントありがとうございます!そう云っていただけるのが何より嬉しいです。是非是非今後ともよろしくお願いします! (11月24日 18時) (レス) id: 1ed6621db5 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ギラッフェ | 作成日時:2023年11月14日 23時