捨身月兎 ギーツ 英寿 ページ17
2回戦が始まるまでの間、参加者たちは解散して英気を養っていた。英寿もそれは例外ではなく、少し出かけて気分転換をすることにした。とはいえやることもないのでただ散歩するだけになってしまう。考え事をしながら歩いていると、ふと思い出すことがあった。バーニーの勤務先が、確かこの辺りだったはずだ。会話に出てくる地名から推察し、最寄り駅へ向かう。現在18時過ぎ。丁度帰宅時間くらいだろう。
歩きながら、自然と笑いが込み上げてくる。彼女に会って、自分は何をするつもりなのだろう。ただ驚く彼女の顔を見るのが面白そうなだけで、その後どうするのかプランなど何もない。そもそも彼女と会えるかも分からない。既に帰宅しているかもしれないし、残業で遅くなる可能性もある。
しかし、心配は杞憂に終わった。駅前の商店街に彼女の後ろ姿を発見したのだ。名前を呼び肩を叩くと、彼女はビクッと体を震わせ勢い良く振り返った。その目には驚きだけでなく、ある種の怯えさえ宿っていた。だが、相手が英寿だと分かると胸を撫で下ろし、いつものように顔を綻ばせた。
「なんだ浮世くんか……え、何でここに?」
笑顔はまた驚きに変わった。期待通りの反応に、英寿はニヤリと笑った。
英「たまたまだよ」
「本当かなぁ。実は私に会いに来たんじゃない?」
英「自意識過剰」
上手く返せただろうか。図星を当てられ、英寿は澄まし顔で冷や汗をかいた。
彼女は、えー、と不満げに英寿を睨み付けたが、疑っている様子はなかった。
英「……この後食事でも?」
迷った挙句、英寿は彼女を食事に誘った。ノープランなりに会話を繋げようとしたのだが、不自然になっていないだろうか。彼女はチラリと後ろを振り向き、そうだなぁと呟いた。表情が暗くなったように見えた。
「せっかくだけど、遠慮しておく。明日も仕事だし」
英「夕食だけでもか? 別にその後どうこうってことは」
「やだー。そんなこと考えてたの?」
英「そんなわけないだろ。アラサー相手に」
「コラ、歳上を笑うんじゃありません。貴方も行く道なんだから」
会話の合間にも、彼女はチラチラと後ろを窺っている。歩調がどんどん早くなっていく。明らかに様子がおかしかった。
英寿もさり気なく背後を振り返った。一度だけでなく、二、三度。すると、怪しげな人物に目がいった。意識しなければ気付けないが、電柱の影、店先、人混みの後ろから一定の距離を保ってこちらをつけている。すらっとした30代くらいの男だ。
英「こっちだ」
英寿は彼女の手を取り路地に入った。彼女は何か言いたげだったが、構わず走った。
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いづみ(プロフ) - 刻卯さん» 承知しました! (2023年2月28日 15時) (レス) id: c26acdadd4 (このIDを非表示/違反報告)
刻卯(プロフ) - いづみさん» 敵同士なのに好きになっちゃった的な設定でお願いしたいのですが難しいかったら甘めのお話をお願いします。 (2023年2月28日 7時) (レス) id: e20218d379 (このIDを非表示/違反報告)
いづみ(プロフ) - 刻卯さん» コメントありがとうございます!リクエスト了解しました!何かご希望の設定や展開はございませんか? (2023年2月27日 21時) (レス) id: 28595e5e52 (このIDを非表示/違反報告)
刻卯(プロフ) - はじめまして!リクエスト失礼します。ギーツでキューンくんを書けたらで構いませんのでお願いします。 (2023年2月27日 16時) (レス) id: e20218d379 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:いづみ | 作成日時:2022年12月2日 22時