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ボソボソ・・・
何の夢だったかわからない。
私はよく、半覚せい状態で夢を見る。
明晰夢とは何かが違うけれど、
そう言う夢のときは決まって寝不足だ。
そんな時、耳に響いたのは男の声。
泥棒??
一瞬、そんな考えが頭をよぎった。
私は水白家の跡取り。
武術、話術は一通り学んだ。
学問は、勝手に本を読んで覚えているから、
人に何かを教えてもらった記憶はない。
それ以外の子供の遊びは、
すべて御波姉上が教えてくれた。
私だってばかじゃない。
数時間前、隣に誰がいたかくらい覚えている。
世の中には、女の人を襲う、という事件があるらしい。
何度か新聞で読んだ。
御波姉上が。
薄く目を開けてみると、
そこにいたのは泥棒でもなんでもなく、父上だった。
”父上!”
仕事であえていなかったその人。
久しぶりに話せると思った時だ。
「御波。
速く起きろ。」
いつもより数段低い、父上の声。
なぜか恐怖心を覚えて、
口を閉ざした。
「・・・わかりました」
夜中でも、しゃんとした姉上の声。
二人は連れ立って、部屋の外へ出て行った。
さっきまで握られていた手が急に冷え、
反対の手で覆った時。
「・・え。」
何かが手につく。
生温かくて、サラサラというか、水っぽい。
ホントは理科の実験上、ダメみたいだが
こんな暗がりじゃあこれ以外判別方法がない。
恐る恐る、舌を這わせる。
しょっぱい・・・。
「涙・・?」
その時だろう。
私が子供ながらに、
覚醒したのは。
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作者名:語り屋誠 | 作成日時:2017年3月7日 5時