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「俺さ、思い出したぜ。全部」
それから、ちょっと考えて、付け足した。
「お前、俺の元の歌聞いてたな」
「……は、はは……だから、そう言っただろう」
力なく彼の手が肩まで伸びてきて、掴まれる。無事でよかった、その声は普段の喧騒は考えられないほどか細い。
司の手に、自分のを重ねる。懐かしい、柔らかな温もりが伝わってきて。
ああ、俺、戻ってきたんだ。
「まだ、歌はあんまり好きじゃない。お母様も先生も、赦せるかどうかわからない。それでも」
重ねる手に力を込める。
「俺は強制されて歌ってたんじゃない。辛い時だって、歌で笑顔にできるようにって、思ってた。だから、届けたい……俺みたいな奴がもう増えないように。歌いたい。だから……」
そこで一旦、言葉を切った。返事が怖かったからだ。
もちろん頭ではそんなこと起きないとわかっているけれど、でもどうしようもなく不安で。
そんな俺の心中を察したのかそうでないのか、司は視線で「大丈夫」だと訴えかけてくる。
それに、背中を押されて。
「また……お前と一緒に、ショーをやってもいいか？ みんなを笑顔にする手伝い、してもいいか？」
そう口にした刹那。
一際強い風が辺りを吹き抜けて、それに乗って音楽が運ばれてくる。今まで聞いたことないけど、ずっと胸の中で埃を被りながらも出番を待っていた気がする。
そうして、今。長年降り積もった埃が払われて、再起動する。
「……もちろん、いいに決まっているだろう」
「――！」
「そもそも、約束を持ちかけたのはオレだ。共に皆を笑顔にしようとな」
悪戯っぽい笑みを浮かべて言う彼の姿が、何故か滲む。おかしいと思って目を擦ってみたら、生暖かい感触がした。
それがどうにも小っ恥ずかしくて、ごしごしと涙を拭き取る。
その様子を見た司は、息を吐き出すように小さく笑って。
「行くぞ。観客達に最高のフィナーレを届けてやらねば！」
司が差し出した手に自分のを重ねる。一回り大きいそれは暖かくて、心を全て預けてしまいたくなる安心感があった。
音が一気に鮮明になる。詞が自然と頭の中に降りてきた。
少し考えた後、Aは不敵に笑う。
「いいや。それは、もう少し先の話になりそうだ」
「……？」
「だって、なぁ、司？ 俺達の物語は、」
――セカイはまだ始まってすらいない！
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