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《そっ、か……。ん? でも、本当に嫌なら、途中でやめれば良かったじゃないか》
「だからやめたって」
《でもキミ、まだ歌ってるでしょ?》
それまで静かに見守っていたミクが俺に言った。
《キミはまだ、もっと歌いたいんじゃないのかなぁ。本当に諦めてるなら、こんなに足掻いていないはずだよ?》
足掻いている。俺が?
あの夜……他の誰でもない、母親の口から、失敗作だと聞いてしまったあの夜。
逃げた。家を飛び出した。胸にあったのは、「歌なんか大嫌い」という気持ちだけ。
逃げた先にあったのはなんだった? まだ続きがあるはずだ。探せ。思い出せ。
――思えば、
身も世もなく泣いた。それはもう、恥ずかしくなるほど、大泣きしたのを覚えている。もうどうしようもならないことを言って、二人を困らせてしまった、……?
「……いや、記憶ちが」
微かに芽生えた、違和感の種。
それがが育ち切る前に摘み取ってしまいそうになった俺を、いつになく必死なミクが、遮った。
《目を逸らさないで。忘れないで。本当の想いを……なかったことになんて、しないで!》
「――……っ!」
あの時、俺は。
名前も何も知らない相手に向かって、もうどうにもならないことを言って困らせてしまった。
どうにも、ならないこと。
《私……っ! 私、できなかったよ、無理だったよ、もう私はっ……》
《お、おい、落ち着けって》
《一体何があったのか、話してはくれないか?》
《……約束したのに。
“私は歌でみんなを、笑顔にするからね”って》
約束。
歌。
笑顔。
……………………そうか。そうだった。約束!!
「――っなんっで俺は、んな、大切なことを……っ!」
今の今まで、綺麗に忘れていた。忘れていた自分が信じられないくらい、大事な出来事。
俺の、本当の想い。
《……? おねえさん?》
「ありがとう、A。お前のお陰で、大事なことが、思い出せた」
《んー、よくわからないけど……わたしが力になれたならよかった!》
「俺、帰るわ……仲間、待たせてる。謝りに行かないと」
《はーいっ、向こうのカーテンを通れば、元のセカイに帰れるよっ⭐︎》
礼を言って、ミクが指差した先にあるカーテンに手をかける。潜ろうとして、ちょっと振り返る。
「二人とも、ミライで、待ってるから」
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