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まあでも、特にどうって事もない。今までこういう顔は幾度なく見てきた。平気平気。なにも恥じることなんてない、だって結局相手が見てるのは俺じゃなくて別の誰か。
……の、はずなのに、じわじわ、顔に熱が集まるのを感じる。きっと雰囲気に当てられたんだろう。
えぇい、落ち着けA。急に始まったが、これは予行練習、エチュードだ。告白だって何度も色んなヤツの練習に付き合ってきた。相手は曲がりなりにも役者で、こんな演技はお手の物のはず。惑わされるな、司なんかに。
何かの予感を振り切ってしまうように、大袈裟に手を振った。
「っま……まァ、及第点だなっ。後はそれをその子の前でやってこい。大抵の女の子はそれで一発だろ」
「いや、まだ、足りないようだ」
「えぇ？ めんどくせーな、告白でもないんだからそんな完璧じゃなくても」
「お前じゃなきゃダメなんだ」
「……おい、つ、つかさ？」
何かがおかしい。口の端が変に引き攣る。頭がひっきりなしに、会話を切り上げろと警鐘を鳴らしていた。
あんな表情、例え相談相手だったとしても、普通見せるか？ 口説き文句も、なんでわざわざ全て確認を取る？ そもそも、なんで俺に？
見て見ぬふりをしていた。だってただの相談なんだから。
しかし流石にもうこれ以上は手に負えない。ただの相談、では済まなくなってしまう。
お前の相手を想う気持ちは十分伝わったから、お願いだから、もうやめてくれ！
その時、びゅうと冷たい風が屋上を吹き抜けて、一瞬目を瞑った。冷えた手を、温かい何かが包み込んだ。
――司の、手？
「教えてくれ、A」
俺が見たことない表情。
それは確実に誰かを想い求めている物で。
「な、なッ……まってくれ、まって」
でもそれはここにいない、どっかの可愛い女の子、それこそ寧々とかえむとかに向けられるはずの物で。
「なぁ、オレはあと何をすれば、お前に振り向いてもらえる？」
それの宛先は絶対俺なんかじゃ、ないはずなのに！
ぐっと引き寄せられて、処理落ちした俺はいとも容易くつんのめる。当然その先は、司の腕の中だ。
「な、なに、って、ふり、え、ぇ？」
「オレはこんなにもお前が愛しくて止まないというのに」
「や、……ぇ、と、タチの悪い冗談は」
「冗談などではない。オレは本気だ」
俺じゃない誰かに向けられるはずだった物。それは真っ直ぐ俺の瞳を貫いて。
底なしの甘い想いを乗せた、その眼差しを真っ向から受け止めてついに、思ってしまった。
あ、おれ、すきかも。
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