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「ふぅん? お前にしては上出来なんじゃねぇの。じゃそれを持ってその好きな人のところへ――」「後は、なんだ」
「は? ……あぁ、そうだよな、普通に誘ってもお前のことだしショーの研究だとか思われちまうよな」
脳みその「恋愛相談」の部分が忙しなく働く。今まで聞いてきた数々の意見、悩み、実体験を元にして、それを司の人格に合わせて落とし込む。
目を瞑って、想像する。場所は……まあ、教室でいいか。放課後。いい感じにお互いが夕焼け色に染まる時間帯。二人、どちらかが誘うでもなく残って取り留めのない会話をしている時、ふと、真剣な顔をした司が――あ、それなんか嫌かも。
「…………?」
なんだ今の。嫌? 何が。何が不満なんだ、俺。
胸にふっと湧いて出てきた違和感。でもそれはすぐに霧散して、後に残ったのは結局疑問だけ。
ここで延々と考えていても仕方がないか。きっと司が恋愛する様なんて考えたくない脳が起こした誤作動だろう。身内特有の気まずさってやつ。うんうん、それだ。
やや強引にそう結論付けて、また想像する作業に戻る。あの違和感は、今度は顔を出さなかった。
ああ、いや、違う。でも、ううん。どうだろう、今までこんなショー馬鹿ナルシストなんていなかったからなあ。
「あーっと、んん。そうだな、“遊園地に”行きたいんじゃなくて、“その子と”行きたいって風に誘ったらどうだ。特別感を出すっていうか。自分を求められて嬉しくない人はいない、多分」
「そうか、それもそうだな」
そこまで聞いた彼は俺からチケットを回収し、「ちょっと待っててくれ」 と何故か俺に背を向けた。先程からの奇行に首を傾げる。
一体何がしたいんだコイツは。日頃から変なヤツではあったがまさかここまでとは……。類に過激な実験はしばらく控えてもらうよう掛け合ってみようか。
そんなことを本気で考えながらしばらくそのまま待っててやると、彼はそう時間も経たないうちにまた俺と向き合った。
「……よし」
「済んだか」
「A」
「おうよ」
「オレと一緒に遊園地、行かないか?」
ちょっ……と、待て。
思いもよらない展開に思わず一歩後ずさる。
コイツ、いきなりなんなんだ!?
目の前にあったのは、ただどうしようもなく真っ直ぐに誰かを恋焦がれる、男の顔だった。一瞬、それが司であることも忘れてしまうほど。さっき頭に思い描いた表情がどれほど生温かったのかを思い知らされた。
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