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理解の及ばない事象からなんとかして気を紛らわせたくて、三人をなるべく視界に入れないようステージの観察を始める。
何列かの客席の先に、円形の大きなショーステージ。しかしまだ建設途中なのか、中央のセットはところどころ足りていない。階段も途中で途切れているし、きっと明るくライトアップされるであろうスクリーンは暗く黙したままだ。
天井から豪奢な赤や青の布が伸び、テントを形作っている。恐らくあの向こうは楽屋か何かだろう。
《え、新しいお歌？ 聞かせて聞かせて！》
《うん、いいよ。んっんん》
そんなこんな、俺が現実逃避に勤しんでいると、ステージの端っこの方で声がする。
ああ、可哀想に。
背を向けたまま思う。母に強制されて歌うのが、自分の幸福だと、使命だと、愚直にも信じているまだ幼い自分。
心の奥底で疑問を感じながら、無意識にそんなことないと必死に目を逸らして、言われるがまま音を捻り出して。
《それではきいてください》
叶うことならその口を塞いであげたい。歌わなくていいのだと、無理をするなと、自分を曲げるなと。
言ってあげたい――
《〜〜〜〜〜――……♩》
無機質な雑音が耳に届くと思っていた。苦しげな旋律が空を震わせると思っていた。
それらとは正反対の、どこまでも優しい音色が体を包み込む。違和感を感じながら、それに引っ張られるようにして、振り向いた。
「…… …… 、 へ っ 」
想像していた姿とはかけ離れた、自分が立っている。
――楽しそうだった。この世の何よりも、歌うことが好きという表情をしていた。
同時に、とある衝動が自分の中に生まれる。それは不思議なくらい当然のことのように、すとんと胸に落とし込まれる。
歌いたい。
そう思ってしまった時には既に、俺の頭の中はこの時を待ち侘びていた音符で埋め尽くされていた。
⭐︎
短く息を吐き出す。浮遊している体が緩やかに下降するのを感じた。
《ありがとうございました》
《……す……すっ、すごいじゃないか！？ いつもよりも……こう、すごかったな！？》
彼女は褒められて嬉しかったのか、にへら、と頬を緩ませる。と、思ったら、何故かあたりをきょろきょろと見回し始めた。
そして。
《あ……》
「え」
目があったのは、まだ呆然としている俺の足が完全に地に着いた頃だった。
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