▼ ページ29
.
「実は、悩んでいて。この先どうすべきか」
カイトの隣に腰掛けて、ぽつりとこぼす。
「少し前、出来事自体は勘違いで終わったのだが……もしかしたらオレが抱えているこれは、あまりよろしくない物なのかもしれないと思わせられる機会があった」
「……どうして、そう思ったんだい？」
「オレの独りよがりの感情で彼女の可能性を閉ざしてしまいそう、だったから」
オレはあの扉の前で、何を思った。
他人を、何より彼女の意思すらも無視して軽んじて、自分のもとに縛りつけようとしていなかったか。大切な宝物のように、誰の目にも触れさせない場所に仕舞っておければと思わなかったか。
それは、本当に恋と、愛と呼ぶのだろうか。
「――司くんは、優しいね」
「え？」
「君は、今ここで悩んでいる。一時的な感情に囚われず、相手の謂わば自由を心配するっていうのは、なかなかできることじゃないよ」
それを聞いて、先日えむに言われた言葉が蘇る。あの時はそれどころじゃじゃなくて、深く考えることもできなかったけど。
「極論を言えば君はそのまま彼女を閉じ込めることだってできたはずだ。それをしないのは、司くんが独りよがりではないことの、何よりの証明なんじゃないかな」
ゆっくりと、その言葉を咀嚼する。今度はちゃんと時間をかけて頭の中で転がして、溶かして、脳に取り込む。
カイトはそうして、オレが一通り考え終わった後に、こう締め括った。
「司くんの気持ちが綺麗か、汚いかは今決めることじゃない。ショーだってそうだろう？ 途中がどんなに絶望的な展開でも、最後に演者が浴びるのは拍手喝采で、やっぱり、皆笑ってる。
感情の価値は、君がこれからどう行動するかで決まるんだよ」
胸の辺りにずっと居座っていた毛糸玉のような蟠りが、驚くほどするすると解けていくのを感じた。
そしてもう一度考える。オレはこの先、どうしたい？
「うぅん、僕が言えるのはこのくらいかな。あっ、あと」
ちょいちょいっと手招きされて、大人しく耳を貸す。それはもう楽しそうな声音で彼は続けた。
「急がないと、誰かにとられちゃうよ。男はみんな狼なんだから」
「おッ……！？ や、やめてくれ、冗談でも！」
「ふふ、ごめんごめん」
気を取り直すように、大きく息を吸った。
「とにかく、今日はありがとう！ 少し分かった気がする」
「うん。またいつでも頼ってほしいな」
優しい笑顔でそう言う彼にも、最高のエンディングを届けてなくては。
――問題ない。
なんてったってこの天馬司が立つ
結末はいつだって、ハッピーエンドしかありえない！
演目『祝砲☆はっぴーえんど！』→←演目『明快☆こんさーん！』
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 55人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
