演目『明快☆こんさーん！』 ページ28
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「嗚呼、愛しの人よ」
溢れる想いに身を任せて、貴女を世界から奪い去ってしまいたい。
清廉潔白の貴女に、汚い欲望を抱える僕を許してほしい。
「それ以上、その麗しさで僕を灼かないでくれ」
瞳に愛情をたっぷり乗せて、僕は彼女へ手を伸ばした。
どうかどうか、この想いが届きますように――
「そこまで」
パン、と手を鳴らす音。それを合図に、今までいた世界が遠のいて、元いたセカイが戻ってくる。
ワンダーランドのセカイの、テントの中。
「いいね司くん、今の演技はとても良かったよ」
「ありがとう、カイト。しかしやはり、こういう役はまだ少し苦手だな」
観客席に座っていたカイトはにっこりと笑った。
「でもそうとは思えないほど上手だったよ。昔よりも格段に説得力が上がってるね」
正面から褒められて若干照れ臭くなるが、すぐに気持ちを切り替える。
今日はセカイで、マンツーマンでの演技指導をバーチャル・シンガー達にお願いをしていた。
寧々はルカと、えむはリン、類はメイコ、Aはレン、そして自分はカイト。ミクは一人につきっきりではいたくないらしく、順番の見て回るらしい。
「それにしても、我ながら素晴らしい練習方法を編み出してしまったな。流石オレ！！」
個々の弱点を重点的に復習しつつ長所を伸ばしていけるなんて……オレは演技だけではなく指導の才能もあるのだな！
「ところで、司くん」
「なんだ？」
「Aちゃんとは、最近どう？」
言われた瞬間、思わず持っていたペットボトルを取り落とす。いくらオレが未来のスターだからってこれは仕方ない。云うならば変化球。そう、会話の変化球が飛んできたわけだ。
いいか落ち着けオレ、冷静に、冷静に。
「っど、どど、どうって、なんのことだ？」
「っあっはは、その様子だと、まだ想いを伝えてないみたいだね」
「お、おおお想いも何もッ――……いや。全部お見通し、ってことか？」
「だって、僕を誰だと思ってるんだい？」
君の想いから生まれたセカイの住人なんだよ、そう言ってカイトはあまり見ない、悪戯っぽい表情で笑った。
「それだけじゃないよ。さっきの演技……やっぱり、“恋の味”を知ったから感情移入し易くなったのかなって思って」
「……そうなのかも、しれないな」
「あまり嬉しくなさそうだね？」
確かに最近、少女漫画(感情表現の研究の為咲希から借りた)を読んでいて以前よりも共感する箇所が多くなったような気がする。そういう物なのだろうか。
全く、感情すらも己を伸ばす可能性にし得るなんて、流石オレ。
……なんて、いつものように思えたら楽なのだが。
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