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えむはそれを知っていたから、「そんなこと、言わないで」と司を遮った。
「司くんが今悲しいのは、寂しいのは、泣いているのは、全部全部、司くんがAちゃんの事が大大だーい好きだからでしょ」
感情が抜け落ちた、でも妙に幼く見える表情で、司は押し黙る。
「あたし、知ってるよ。司くんがずっと悩んで、Aちゃんを誰よりも一生懸命に想ってるの。
その気持ちはとっても、とーっても素敵なことなのに、司くんにとって大事なことなのに……大したことないなんて、言わないであげてよ。無かったことになんて、しないでよぅ……！」
瞳にうるうる涙を溜めながら、必死に訴える。言葉の意味を飲み込みきれていない司を他所に、寧々はえむに寄り添った。
「司、下手くそな演技をするくらいなら演じないで」
「……下手だったか」
「うん。もう、目も当てられない」
そうか、と溢して、彼は小さく笑った。先程の“いつもの”笑顔ではない。
「全く、お前らには敵わないな。ははは、はは……は、っ、ずび、ぅ……」
「全部、吐き出そう。泣くだけ泣いたら、一緒に考えてあげるから」
「うぅ〜……司くん゛、づらがったね゛〜〜……！」
泣き出した二人を交互に慰めながら、寧々はやれやれと思う。
いつもは「オレを頼れ！」とか言うクセに、こういう時は不器用というか、なんというか。
でもそれが寧々の気に入った座長であって、皆に愛されるスターなのだ。
と、その時。若干音割れしている「電話だ！！」という声と共に、司の携帯が震えた。
「……Aからだ」
「え、あんたの着信音それなの？」
「すまん、寧々、代わりに出てくれないか。今はとても」
「う、うん」
まさかの着信音に引きつつ、寧々はスマホを受け取った。
「もしもし……ああ、うん、司はここ。あ、類と一緒？ それよりあんた、待たせておいて……え？ あ、そ、そうなの？ あー……そうなんだ……いや、ううん、じゃあね、うん、なるべく早く来てね」
気まずそうな顔で電話を切り、スマホを司に返す。なんて言えばいいんだろう、この空気では非常に伝えづらい。
「Aなんだけどさ」
「ああ……」
「司のこと、探してた。隣の席の子の恋愛相談に熱が入って遅くなった……って、言ってた」
数拍遅れて、誰のともつかない「はぁ」という間抜けな声が漏れた。
「寧々ちゃん、つ、つまりそれって」
「……告白の、練習だって」
「………………はぁぁぁぁぁぁ〜〜〜〜……！」
心の底からの大きなため息を吐く座長を見ながら、寧々は思う。
全くこの二人、どれだけ回り道をすれば気が済むのかな。
演目『明快☆こんさーん！』→←演目『落涙☆みっくすあっぷ！』
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