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開演まで、あと一時間。

寧々を除く全員で、俺たちは膝を突き合わせて話し合っていた。

神代がうーん、と唸って、台本に視線を落としながら俺に聞いてきた。


「やっぱり一番は、Aくんが歌うことだけど……厳しそうかい?」
「あー……さっき練習をして、それでなんとか、って感じだった。でも、それもわからない。大勢の前に出た瞬間声が出なくなるかもしれないし、逆に調子が良くなる可能性もある」


そう答えて、くしゃりと髪をかき混ぜる。中途半端な己が情けなかった。

無理矢理歌っているうちに、自分でも段々わからなくなった。嫌いなはずなのに、なんだかそうでないような気もして。


「ほんと、ごめん。頼りなくて」
「いや、そんなことない。代役を名乗りあげてくれただけで十分ありがたいよ」
「はいはいっ! それならっ、ここはアドリブでやるのはどお?」


しゅぴっと元気よく挙手をしてえむが言う。その姿を見て沈んでいた気持ちが少し浮き上がった。


「アドリブか……まぁ、できなくはないが。具体的にどうするのだ?」
「その時になって、Aちゃんがしょぼーんってしてたらあたしが代わりに歌う! でも、そうじゃなくって、びびーんってやる気いーっぱいだったら、台本通りにするの!!」


そこまで言って、えむが自慢げにこちらを見た。キラキラとした表情で、言いたいことが嫌でも伝わってくる。

お望み通り、俺は身を乗り出して向かい側に座っているえむの頭を豪快に撫でてやった。


「いいアイディアだぞえむ、お前は天才だ〜っ!」
「えへへ、良かった!」
「ふむ、そうだね……司くん、できそうかい?」
「未来のスターを舐めるなよ、それくらい朝飯前だ」


あらかた話がまとまったところで、ぱしんと膝を打って天馬が勢いよく立ち上がる。


「よーし、そうと決まれば早速練習だ! もう時間はないのだから、きびきびいくぞ!」
「はーいっ!」
「神代、俺演出の方できなくなっちまうけど、大丈夫か?」
「何を言っているんだいAくん、君が来る前は僕が全部やっていたんだよ?」
「そうだ、コイツ天才なんだった」


リハーサルの準備のためにぞろぞろと全員で舞台袖に移動する。ふと振り返ると、無人のステージが役者のことを静かに待っている。立ち位置のテープや傷あとが残るその床では、今まで様々な夢と魔法のショーが行われたのだろう。


「俺にも、できるかな」


寧々や、他の奴らみたいに。

俺も、歌で、まだ人を笑顔にすることは、できるかな。

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ありに(プロフ) - 5年ぶりに夢小説を漁ってたらとんでもない神作品に出会ってしまった…応援してます☺️ (2023年3月10日 19時) (レス) id: 1064f8688a (このIDを非表示/違反報告)
ただのせかおた - 最初の注意事項とか舞台挨拶(?)みたいな感じで書いてるのめっちゃ素敵です!!お体には気をつけてこれからも頑張ってください💍応援してます!! (2023年1月21日 23時) (レス) id: 5310fc155c (このIDを非表示/違反報告)
kubota6(プロフ) - この作品めちゃ好きです!応援してます! (2023年1月10日 23時) (レス) @page17 id: a05e9c9f42 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:詩声 | 作者ホームページ:なし  
作成日時:2023年1月6日 9時

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