・餌付け ページ5
先程の発言が効いたのか、何事もなかったかのように荷解きを再開する。
ここに来る前にホームセンターで買ってきたカッターを袋から取り出して、律儀に段ボールを開封していく圭介。
だが、一瞬だけこちらに向かって目を尖らせ、いーっと歯を食いしばって睨みつけてきた。威嚇のつもりだろう。子供か。
免許を持っているから成年に達しているとは思うが、全く成人らしくない。
「あ、そうだ」
何か思い出したようにカッターが入っていた袋から、お徳用と書かれた小石がパンパンに詰まっている袋を取り出し、僕の方を放り投げてくる。
キャッチしないわけにもいかず、受け取るとズシっと重みがかかって少しふらつく。
なんだこれ……嫌がらせか？
「“チョコ”好きだろ？」
露骨に嫌そうな顔をしていると、とてつもない明るい笑顔でそう答える。
チョコ？
疑問に思って袋の裏面を見ると石チョコ1kgと記されている。
確かに石をよく見るとうっすらチョコが透けているような、にしてもわかりずらい。本当に石かと思った。
でも悪気がないのは圭介の屈託ない笑顔を見ればわかる。
「あー……ありがとう。」
さっきまで悪態を吐いていたから感謝するのは変な感じだ。
圭介は再び袋から紙コップを取り出して「ん」と渡してくる。
その意図が分からず、受け取ったまま固まっていると、石チョコを僕の手から取り上げて片手に持っていたカッターで封を開けた。
そして僕が持っていた紙コップにチョコを流し込んでいく。
3分の2が埋まると「よし」とだけ言って、もうひとつの紙コップに同様にチョコを流した。
「これで食べやすいだろ？」
残りの石チョコを机に置いて、チョコをつまみながらそう言う。
同じように一粒取って口に入れると、チョコの甘い香りが口に広がる。若干安っぽい味、というか懐かしい味。
「悪くはない」
「だろ！」
久々に甘いものを食べたから美味しくてつい口元が緩む。
たまにはこういうのも悪くない。
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