144話 井戸の底 ページ45
白石「あ……ああ！そ…ッそうだよね！」
やっと正気に戻った二人は慌ててマッチを取り出し火を灯すと、古井戸の底を覗く。
貴『……
からっぽ……ですね…』
いくら古井戸の奥を睨みつけても、そこにはマッチの火にゆらゆらと照らされる井戸の底があるだけだった。
白石「そ……そんなわけないッ
きっとまだ中にあるはずだッ！！」
貴『ちょ、白石さんッ！？』
マッチの火でぼんやりと照らされる井戸底を見ただけでは諦めきれなかったのか、白石はそのまま勢い良く古井戸の暗闇の中へと飛び込んだ。
貴『だ…大丈夫ですか！？』
ミツキは慌てて彼を追いかけるように井戸へ駆け寄る。
白石「くそッ無いなんてそんなわけ…ッ」
白石は古井戸の底に這いつくばり鼻息を荒げながら必死に金塊を探し回っており、改めて彼の諦めの悪さを認識した。
貴『白─』
白石「チクショーーッッ！！
大事な俺の金塊…いやアイヌの金塊がッッ！！」
…"俺の金塊"？
貴『……ふぅん…』
ミツキは冷たい眼差しで白石を見下ろしながら、古井戸の蓋を閉じるように静かに足をかけた。
ズ … ズ … ッ
白石「…ん？ミツキちゃん？
な…なんで閉めるの？ねえ？」
蓋の閉じていく音で気付いた白石は焦ったように声を上げる。
貴『……誰の金塊って？』
その言葉に、白石は「あっ」と呟き言葉を詰まらせる。
自身の失言にやっと気づいたのか、彼はダラダラと冷や汗を流し始める。
白石「いッいやあの……！違うんだよミツキちゃん！
決してミツキちゃんが思ってるような意味で言ったわけではなくて…ッ」
貴『大丈夫ですよ、ちゃんとわかってるんで』
白石「いや絶対わかってないよねッ！？とりあえずその足を蓋から退かそう！？ねッ？」
コ ツ …
白石「…んあ？」
白石がそう言い必死に訴えかけようとした時、何か硬い物でも蹴飛ばしたような音が足元から聞こえた。
白石「なんだこれ、金塊かッ！？」
貴『えッ！？』
先ほど蹴った足元のそれを白石は慌てて拾い上げる。
白石「…これは…ッ」
白石が拾い上げたそれは何かの入れ物のようで、酷く見覚えのある木彫りの熊の装飾が施してあった。
貴『そ…それは…
平太さんの……ッ』
マッチの火によって辛うじて照らし出されたその木彫りの熊に、思わず言葉が詰まる。
どうしてこんなところに…
だってその煙草入れは…
白石「 マ ジ か よ …… ッ
あ の 野 郎 ッ や り や が っ た ッ ！ ！ 」
…
……
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作者名：ちあきんぐ | 作成日時：2024年3月12日 11時
