137話 最後のお願い ページ38
ミツキは喉から言葉を出しかけるも、その吸い込まれそうな瞳と表情を目の前にした途端、何も言えなくなってしまう。
アシ「私が矢筒を取り戻してくる」
白石「……あッ」
そう言ってアシㇼパが戸を開けた先を見て、思わず白石が声を上げた。
それも当然のことで、本来繋がっていないといけないはずの連結部分が綺麗に外されていたのだ。
貴『連結が…！！』
白石「どんどん離れていってるぞ！」
はやくしなければ…
鶴見中尉に権利書を本当に奪われてしまう…
そうなってしまったら、土方さん達の死は無駄に終わる…
焦るミツキとは反対にアシㇼパは静かに戸を閉じ、少しばかり考えた後口を開いた。
アシ「………さんにんに頼みがある。
私の最後のお願い……」
アシㇼパはミツキ達の方へと向き直り、再び間が空く。
背後の戸窓から差す陽の光で陰った顔が、一層彼女の瞳を暗く見せる。
アシ「……あの井戸は…
埋めたままにして欲しい…！！」
「……ッ」
あの金塊を…
そのままに…？
ゴクリと唾を飲み込み、三人はアシㇼパの次の言葉を静かに待つ。
アシ「…あの大量の金塊を手に入れたから
"めでたしめでたし"とは絶対にならない。
持っている限り、殺し合いが延々と続く…！！
みんな死んでしまった…
黄金のカムイの呪いを断ち切らないと！！」
アシㇼパのその言葉にミツキはまた彼らの死を思い出してしまい、自然と目頭が熱くなる。
アシ「杉元ッこの金貨は…多分十圓くらいの黄金だ！
これじゃ治療費に全然足りないけど…
でも…私がヒグマの胆嚢をたくさん獲るから！」
アシㇼパは房太郎から貰った金貨を懐から取り出し杉元に差し出した。
アシ「白石と峰山はこれを…！！」
ｶ ｻ . . .
「…」
……はんぺん…
まだ持ってたんか……
白石の掌に乾ききったカサカサのはんぺんを乗せられ、なんとも言えぬシュールさに言葉が出ない。
アシ「あの井戸には戻らないで……忘れて欲しい。
いちばん大切なひとまで失いたくない…ッ」
そう言い頭を下げるアシㇼパに、ミツキの形容し難い気持ちが自身の胸をズキズキと痛ませる。
貴『……アシㇼパ…さん…』
白石「……ッ………ッッ」
白石は苦虫でも噛み潰したように顔に皺を寄せ、言葉にならない唸りをあげる。
彼は散々ぐわんぐわんと頭を揺らし思い悩んだ後、
「 は ぁ . . . 」と弱々しくため息を吐き出し、杉元の肩に手を置いた。
白石「…言ってやれよ、杉元。
"わかった" ってさ…」
杉元「…」
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作者名：ちあきんぐ | 作成日時：2024年3月12日 11時
