136話 瞳 ページ37
貴『あ…アシㇼパさん……』
彼女のいつもの美しい瞳からは光が失われていた。
そんな"覚悟"が決まったような瞳に、何故だか底知れぬ不安を感じてしまう。
足元に落ちた刀を手に取り毒のついた矢先を穿り出す尾形に、アシㇼパが毒矢をもう一本構える。
杉元「アシㇼパさん射てッ！！」
「伏せろッ」
貴『！？』
尾形から銃口を向けられた瞬間後方から白石の声がしたと同時に、アシㇼパとミツキの上に白石が覆い被さり二人を伏せさせた。
一秒…
二秒……
五秒ほど経っただろうか。
依然として発砲音が鳴る様子は無い。
貴『……っ…？』
恐る恐る尾形の方を見やると、何やらブツブツと独り言を呟いていた。
尾形「 も う い い ！ ！
考 え る な ッ 負 け る ！ ！
こ れ 以 上 ！ ！ 考 え る な ！ ！ 」
貴『な……ッ』
あまりにも一瞬のことだった。
けたたましい一つの銃声があたりに鳴り響き
尾形は汽車の屋根から落下していった。
落ちていく瞬間
彼の義眼の瞳がこちらを見たような気がした。
貴『……ッ
おがた…さん……』
杉元「っこいつをなんとかしてくれ…ッ」
貴『あ…！！』
ミツキはヒグマに引っ張られる杉元の姿にハッと我に帰る。
尾形に先ほど落とされた銃をすぐさま拾い上げ、ヒグマの鼻目掛けて撃ち抜く。
運良く脳まで到達したのか、ヒグマは杉元から爪を離しドスンと落ちた。
貴『動けますか？』
杉元「……ああ…助かった」
アシ「…っ」
白石とミツキが負傷した杉元に肩を貸していたその時、ガタガタとなにやら汽車が大きく揺れた。
上から汽車の前列を見下ろすと、機関室に誰もいないことが分かる。
杉元「このままじゃ函館駅に突っ込むぞッ」
その時、機関室に乗り込む鶴見の姿が目に入る。
貴『あれは……ッ』
アシ「…」
そのまま毒矢を射とうとアシㇼパが弓を構えた瞬間、鶴見がこちらに向けて発砲する。
それをなんとか躱し「こっちから降りる」と下へ降りていくアシㇼパにミツキ達もついていった。
…
屋根から降りて車内へ戻り機関室へ向かう途中杉元の足元がふらついてしまい、危うく転びそうになり慌てて支える。
貴『っ…！杉元さん…』
白石「おい…大丈夫かよ杉元…」
杉元「……どうってことねぇよ…」
アシ「…」
しばらく通路を歩き機関室の前まで来ると、アシㇼパがミツキ達の方へ振り返った。
アシ「…三人とも、ここにいてくれ。
アイヌの権利書は私の問題だ」
「！？」
いきなり何を…？
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作者名：ちあきんぐ | 作成日時：2024年3月12日 11時
