99話 大きな夢 ページ50
海賊「近いからって簡単に見つけられるような場所にのっぺらぼうが隠すとは思えねぇ。
懐に入れたはずの小銭だって見つからない時もあるだろ？」
海賊はそう言うと、杉元と白石、ミツキの三人の肩を抱くように腕をまわして引き寄せる。
海賊「だからよ、手を組まねえか？シライシは面白いから好きだったんだよなぁ。杉元みたいな強い男はもっと好きだ。…ミツキちゃんも…」
貴『ひぇ…』
途中で何かを言いかけてやめ、ミツキを見てニコリと微笑みかけた。
白石「モメるぜ〜？分け前で」
海賊「上級の家臣はどうだ？俺の国の」
杉元「…また訳の分からんことを言うやつが現れたな」
貴『国…？』
ミツキが首を傾げていると、海賊は三人から離れて自分の夢を語りだした。
海賊「どこか暖かい東南アジアの小さな島で、俺は王様になる！！果物作ってよその国に売って、通貨には俺の顔が刻印されたりな！！子供をたくさん作って俺の家族の国を作るんだ。良いだろ？」
貴『おっきい夢だなぁ…』
白石「いっつもそれ言ってたなぁあんた…はは…」
白石とミツキが目を細めて呆れたような達観したような様子で言う中、海賊は杉元に質問する。
海賊「杉元…家族は？」
杉元「ああ？別にいねぇけど」
海賊「兄弟もいないのか？孤児か？捨て子か？」
杉元「うるっせぇ質問野郎だな、ズケズケと」
ものすごい質問責めだと思っていると、やはり杉元も同じことを思ったようで苛立たしげに溜息を吐いた。
海賊「どのみち終点の江別まで逃げ道はないんだから、お互いもっと知り合おうぜ」
杉元「俺が興味があるのはお前の持ってるアイヌの情報だけだ」
海賊「ひょっとして…家族全員殺したとか？」
「…」
白石「え？殺したのか？」
貴『えぇ…？』
杉元「殺してねぇよ。
……結核だ。いいんだよこの話は」
中々に重い空気になってきたなと思っていると、海賊が杉元に腕を回した。
海賊「…じゃあわかるだろ？俺の家族も全員疱瘡にやられたんだ。地元のみんなが俺と俺の家族を疎んで…
誰も話しかけない、触れてもくれない。故郷に居場所は無くなった。
だから子供心に思ったね…"俺の国を作れば誰も俺を追い出せない"って」
貴『……故郷…』
白石「王様ねぇ…ははは…」
理由は違えど、今更故郷に帰れないのはミツキも同じだ。
この旅を終えたらどうしよう…なんてことを、今更考えてしまう。
海賊「夢を持って前向きに！！いつ自分が疱瘡にかかるか怯えて暮らすのは止めにしたのさ」
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作者名：ちあきんぐ | 作成日時：2024年3月2日 7時
