63話 名誉の負傷 ページ14
いつの間にか日が昇りウイルタを待たせていた場所へ戻ると、尾形が先に戻ってきていた。
白石「随分と顔色悪いなぁ。いつも悪いけど」
貴『大丈夫ですか？』
ミツキはそう言うと尾形に近づき、手の甲を彼の額に当てる。
貴『…！酷い熱ですよ』
尾形「少し雪を口にしすぎただけだ…」
「こんな熱どうってこと…」そう言いかける尾形の顔色は真っ青だ。
キロ「急いでここから移動するぞ」
貴『寒くないですか？尾形さん』
尾形「…」
…
しばらくトナカイに引かれて進み、ウイルタの男のいとこの家だという場所に到着。
ミツキとアシㇼパは尾形をテントの中へ連れていく。
貴『アシㇼパさん、それは？』
アシ「これはスワシと言って、苦い灌木という意味の木の枝だ。アイヌは風邪を引いた時にこの木の煮汁を飲む。
これを頭から被れ。湯気に蒸されて沢山汗をかけ」
ミツキは「被せてやってくれ」とアシㇼパから頭巾を渡され、尾形の頭に掛けてやる。
その時、民族の一人がドンッと太鼓のようなものを叩き始めた。
キロ「いとこはサマなんだそうだ。サマというのは、神と人間の間を取り継ぐ者のことでな。祈願によって病気の治療を行うんだ」
貴『はえー…』
キロ「病人には悪い化け物が憑いていると、彼らは考えていてな…太鼓や唄で神と対話して取り去ってもらうのさ。賑やかにすれば、神はより早く来てくれる」
その話を聞いたアシㇼパと白石は棒のようなものを手に取り、がむしゃらに音を鳴らし始めた。
貴『う…うーん…耳が…』
キロ「…」
キロランケはしんどそうに耳を塞ぐミツキの手を退け、数時間前に狙撃手によってつけられた彼女の耳元の傷を見る。
キロ「…」
"待ちなさい！貴方さっき屋根の上から！"
最後に聞いたインカラマッの言葉が、いつまで経ってもミツキの頭の中に取り残されている。
貴『…！あの……近いです…』
キロ「…その傷…残りそうだな」
キロランケはそれだけ言うとミツキから顔を離し、頭にポンと手を置いた。
キロ「薬を塗っておけばすぐ塞がるだろう。…あそこは俺が出るべきだったのに、すまなかった」
貴『…私が勝手にしたことです。この程度の傷で済んだことこそ、カムイレンカイネ…カムイのおかげですかね』
キロランケはフン…とだけ笑うと、また煙管をふかし始めた。
白石「ミツキちゃんも鳴らせー！なんか盛り上がってきた！」
アシ「峰山の分もあるぞ！音を出して尾形の熱を治してもらうぞ！」
貴『…ははは…』
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作者名：ちあきんぐ | 作成日時：2024年3月2日 7時
