Reluctant parting ページ3
・
「A様?」
その日、散歩をしていた私に声をかけたのは
見知らぬ女性だった
「……どなた?」
見覚えのない方だったためそう問いかけた時
女性はハッとした顔で頭をゆったりと下げた
「失礼致しました。
どうか不躾にも声をかけた無礼をお許しください」
顔を上げたその人をみたとき
その人は今にも泣きそうな顔をしていることに気がついた
「あの…どこかでお会いした事が…」
「……いえ、これが初めてです…。
ただ、私が一方的に存知あげていた次第です」
「奥様」
私の付き人は明らかにその人に警戒をしていた
「私は五条家の侍女にございます」
「そうだったんですね。
五条さんのお家の方なら
きっとこの先も末永く顔を合わせるでしょうし
以後よろしくお願いいたします」
私がそう挨拶をした時その人は眉を下げて笑った
「A様はA様なのですね」
「……?」
「奥様、戻りませんと」
まだ話したいところだけど
私の付き人があんまりにも急かしてくるから
妙な違和感を覚えながらもそれにつられるように屋敷に戻ろうとした時
その人は私に「奥様!」と叫んできた
「…奥様、ご懐妊おめでとうございます」
決死の覚悟のような顔で告げてくるその人に
私はなんとも言えない気持ちが込み上げてきた
「無事にその子が生まれた時
貴方様が母となる姿をまた私に拝ませてください」
「……えぇ。約束します」
あんまりにも必死に言うその人に私は思わず言ってしまった
「この子が無事に産まれてくるよう、撫でて貰えませんか」
その人は一瞬驚いた顔をしたけど
その後すぐに笑った
「はい」
そういってその手が
私のお腹に伸び始めていた時だった
「っ!!!!」
「__背後に気を配らないような人間が
五条家当主夫人の側近頭だったとはね」
・
303人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ