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五条、という言葉に反応したのか
Aの口が動く
「ごじょ……う…さとる……」
「そうです。貴方の婚約者です」
その言葉に明らかに動揺し
Aは頭を抱え唸りながら苦しむ
しかしそれに耐えられなくなったのか
「乙骨先輩!!」
「憂太っ!!!」
Aは乙骨に襲いかかった
荒々しい息を上げながら首をしめる彼女に
乙骨は顔色一つかえずに問いかける
「堕神憑として最後を迎えたいか
五条家の婚約者として最後を迎えたいか
どちらか選んでください」
容赦なく浴びせられた言葉にAは動きを止めた
「ごじょうけの…こんやくしゃ……」
「貴方のことですよ、Aさん」
__あぁそうだ
私は五条家の当主夫人になりたかったんだ
__あの人に会いたかっただけなのに
どうしてこんな事をしてるんだろう
__関係の無い常磐を死なせてしまった
私に群がった加茂家の人間を死なせてしまった
__ここにいる亡骸も全部私が殺した
__血溜まりに映る姿を見て私は悲鳴をあげた
__なんて醜い姿をしているんだろう
__こんな姿、悟さんにみせたくない
__目の前にいるのは乙骨君達だったのね
この子達にこんな情けない姿を晒していたら
悟さんのメンツも丸つぶれだわ
__一体何をしていたんだろう
私は羂索を殺したかっただけ
それなのに悟さんの生徒に手を挙げるなんて
徐々に乙骨を掴む力は薄れていき
やがてその手は乙骨を完全に離した
「乙骨君、お願いがあるの」
そう話す声はいつもの彼女だった
ここまでに来る道中に多少は怪我をしていたのか
額から血を流していた為気が付きにくかったが
よく見れば片目はすっかり人としての姿を戻している
「私の実家に行って“御霊鎮め”をお願いして」
「……分かりました」
ありがとう、と笑う彼女はすっかり正気を保っていた
「貴方、藤原家と菅原家の末裔なんですってね。
菅原の血のお陰かしら
最後に穏やかに話せた堕神なんて居ないのよ。
……きっと悟さんを思い出したのね」
「Aさん、」
何かを言いかける乙骨に対してAは眉を下げて
今にも泣きそうな顔で微笑む
「この1年で大きくなったわね」
あんなに自信の無い子だったのに、と懐かしむ彼女は
乙骨の頭を撫でるとそのままゆっくりと離れた
「さぁ行って。私が私である間に」
その言葉に乙骨が名残惜しそうに駆け出してすぐだった
「Aさん!!!」
「Aさん!!!」
彼女は自分の左胸を一思いに貫いた
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