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「…フム、これは悩みというよりは…弱みに近いな」
「え、弱み?」
思わず聞き返すと君はこくんと頷いた。
「…それってさァ、他人に言うもんじゃないよねェ?」
「そうだね、故郷でも習ったよ。弱みそれ即ち命、握られたら死んだも同然…とね」
「えェ…なにそれェ、おれそんな物騒なの訊いてない」
悩みは何かと聞いたはずなのに弱みを出されても困る。そう考えたのが顔に出ていたのか、おれを見て君は苦笑いを浮かべた。
「それでも君が望むなら、…僕の弱みを言っても良いかな」
「あっ、なんかその言い方怪しい…後で『言わされたから』なんて言わないでよォ?」
おれが弱みを吐けって言ったから〜なんて言われちゃ困るしね。…まァそんな卑怯な事しないとは思ってるけどさ。
「…ん〜、まァでも身内の弱みを知ってて損は無いよねェ…。…よし、じゃあいいや。暴露しちゃえ、ヒロくん!」
まさかこんな所で君の弱みを聞けるとは思わなかった。でも、おれの性格みたいにひん曲がった考えだけど…なんならその弱みとやらでそのうち一泡吹かせてやるのも良いかも…♪
「…分かった。……聞いてくれ、藍良」
「……?」
そんなおれの邪な思惑に気付かず、君は一瞬笑いかけてから徐に目を伏せた。
そして一呼吸置いて、君にしては珍しく弱々しい声で話し出す。
「僕はずっと、アイドルを見たら真っ先に兄さんの行方を案じていた。どこに居るのか、どうしたらあの頃のように話せるのかなんて…女々しくもね」
なるほどお兄さんの話か…まァ確かに気も休まらなさそうだもんねェ…
同情の頷きを見せると君はにこりと笑った。
「でも何だか近頃変なんだ。兄さんの事じゃなくて、君が…藍良が喜びそうだ、なんて考えてしまう」
「…ん?」
「妙な話だよ。分かってはいるんだ、安心して欲しい」
何が?え、何これおれの話?
そう口を挟む隙すら与えず、君は話し続ける。
「…でも伝えたいのはそんな事じゃない。僕はアイドルを滅ぼすつもりでいたけど、今は違う。アイドルが好きなんだ。何が正しいだとか御託はやめた、『僕』として輝けるそんな存在が好きになったんだ。それが紛れもなく君のお陰である事は痛感しているよ」
「………えっと…?」
不審がるおれに、君は待てと言わんばかりに目で宥めた。
「…それから、それに気付いた時…アイドルを同じように好きでいる君へのこの気持ちにも気付いたんだ」
どこからか吹く風が、おれと君の頬を優しく撫でた。
「君が好きだよ、藍良」
輝く月よりも綺麗なその微笑みを浮かべる君に、おれの心臓は一瞬動きを止めた。
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作者名:冴波せつ | 作成日時:2020年5月4日 12時