９ ページ42
着いたよと声がして、顔を上げると幾つか町の明かりが目に入ってくる。やっと抜けられたと安心して脱力すると、彼は近くの座れそうな場所にあたしをするりと降ろした。
テオ「どう？痛み、酷くなってない？」
オウハ「…そうね、うん。安定していたから、大丈夫」
テオ「そう、良かった。…でも一応、心配だからもう一回だけ貼り直させて。あと予備も持って行ってよ」
そう言ってテオは、有無を言わさずしてまた重ねて施術した。十分すぎるくらいだと言うと、治療をしすぎるに越したことはないとだけ返す。
そして一通り終えると、荷物から幾枚かの湿布と包帯を寄越した。一瞬戸惑ったあたしに、彼は無理に手に握らせた。
オウハ「…凄いのね、お医者様って」
誰かを助けられる、その為に動けるって素晴らしいことだと思うの。
ぽそりと呟きそう続けると、片付ける手を止めて酷く間抜けな顔をされた。
テオ「うーん…まぁ、俺は好きでやってるみたいなものだし。でも、誇りは持ってる」
オウハ「そうね、でなければここまでしないわ。本当に、助けてくれてありがとう」
テオ「あはは、……まぁ、そうかもね。あ、あと――」
潮時かと思いキルリアとココドラを呼び寄せようとしたところ。テオは徐に一つのモンスターボールを投げた。現れたのはフライゴンだ。出てくるなり翼をはためかせ、着地を決める。
テオ「大事な用なんでしょう、乗っていくと良いよ」
オウハ「い、いいえ！流石にそこまではお願い出来ないわ」
テオ「乗っていきなよ。この子、賢いから自分で帰ってこられるし…空の方が何倍も早い」
オウハ「でも…」
テオ「今はあまり歩かない方が良い。それで困るのは君だけじゃなくて…そこのキルリアもココドラも、それから弟さんもだよ。…もっと自分を大切にして」
そこで沢山の名前を出されると躊躇いも揺らぐというものだ。正直彼の言う通りで、急がなければならないのは事実だし走るのも覚悟していたのだ。
オウハ「…じゃあ、お願いするわね」
そっと触れながら頼むと、フライゴンは応えるようにひと鳴きして身を屈める。
テオ「気をつけてね。無理はしないように」
オウハ「えぇ。何から何までありがとう。あの時出会えたのが優しい貴方で本当に良かったわ！」
二匹をボールに収めてフライゴンに乗り、感謝を込めて笑みを向けた。
テオ「…ふうん、そういう事言うんだ…。じゃあ俺も――」
その瞬間にフライゴンは羽撃き、その音で彼が何を言ったかは分からなかった。
ただ優しげに笑う貴方にありがとうと告げ、見えなくなるまで手を振りあった事は覚えている。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：らっこ | 作成日時：2020年2月24日 18時
