甘い紅で口付けて ページ29
口紅を新調したのと同時に、凜に似合いそうな物を買ってみた。
あまり外に出ない事もあり、普段は滅多にメイクをしない彼女。
だからこそ彼女には、もっと自分に気を遣って欲しいのだ。
部屋に入ると、彼女はベッドで眠っていた。
普段なら起きるまで待つのだが、
早く渡したかった事もあって起こす事にした。
でも、普通に起こすのは面白くない。
「っ…。」
「んっ…、ひなちゃん…?」
「おはよ。」
「…近いー。」
流石に少し恥ずかしかったけど、彼女を起こす為だ。
王子が眠っている姫をキスで
目覚めさせるのは、おとぎ話ではよくある事。
「ごめんね。毎日何も出来なくて。」
「良いよ。私はただ、凜に会いたかっただけだから。」
言いながら、鞄に潜めていた小さな包みを見せる。
「はい、これ。凜にあげる。」
「可愛い袋…。開けてみるね。」
彼女は包みのリボンを解き、それとほぼ同じ大きさの口紅を取り出した。
「……本当に貰って良いの…?
その、何て言うか…、高そう、だよ?」
「あげる為に持ってきたんだから良いの。
ねえ、口紅を贈るのってちゃんと意味があるの、知ってた?」
そうなの?と驚く彼女を見て、言葉を続ける。
「女の子同士の場合は、<もっと綺麗になって。>って意味。
でも恋人同士だと、また違う意味になるんだよ。」
口紅をその手から借りて、キャップを開ける。
凜の首筋に掌を置いて、彼女の唇に色を付けてみた。
美形の一部であるそれが、ピンク掛かった赤に染められていく。
「いつもより可愛いよ、凜。」
「…こ、恋人同士だと、どう言う意味なの…?」
「ふふ、聞きたい?」
耳元に口を近付け、敢えて甘い声で囁く。
「<貴女のキスで返して。>だよ。凜、キスして。」
「…口紅、付いちゃうよ…?」
「そんなの気にしないよ。ほら、来て。」
甘い声のままそう返すと、私は目を瞑った。
少しの静寂の後に、濡れた唇が私のものと重なる。
べたべたとした感触の中に、コスメ特有の甘い香りを感じた。
私としてはもう少し激しくしても良かったのだが、
彼女はそれを嫌がるだろう。
「ん…。やっぱり付いちゃった。」
「付けて欲しかったから良いの。
これで凜とお揃いになるからね。」
そう言うと彼女は、恥ずかしそうに顔を伏せた。
「ねぇ、今回のはどっちの意味なの?」
「ふふ。それはね…、両方だよ。」
普段にも増して綺麗になった凜に、もっと甘えて欲しいから。
唇だけでなく頬まで紅くなった
凜の口元を指で撫でながら、私は彼女をただ見つめた。
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